島津製作所は,米国国立衛生研究所に所属する米国国立がん研究所(National Cancer Institute,NCI)と5年間のCRADA(共同研究開発契約)を締結し,実用化が期待されている新たながん治療法「がん光免疫療法(Near Infrared Photoimmunotherapy,NIR-PIT)」の安全性や治療効果を評価・改善するための計測技術の研究開発を共同で実施する(ニュースリリース)。
「NIR-PIT」は,NCIの小林久隆主任研究員が中心となって開発している治療手法で,正常細胞を傷つけることなくがん細胞のみを狙い撃ちし,短時間でがんを破壊するための手法。がん細胞のみに結合する抗体と近赤外光を吸収して化学反応する特殊な色素を組み合わせた抗体薬物複合体(Antibody-Drug Conjugate,ADC)を注射し,近赤外光を照射してがん細胞のみに集積したADCを反応させることで,がん細胞を選択的に破壊することができる。
現在,米国では第一相臨床試験が成功し,第二相臨床試験を実施している。日本でも本年からの臨床試験開始が決定しており,シンガポールなどでの臨床試験の準備も進んでいる。
この手法において,ADCのがん細胞への集積度合いや近赤外光による化学反応の進行状況を計測することで,「NIR-PIT」の安全性や治療効果を高めることが期待される。
同社は,メリーランド州コロンビアの米国子会社 SHIMADZU SCIENTIFIC INSTRUMENTS,INC.の施設内に2015年7月に開設した「SSIイノベーションセンター」を主体とし,主力製品である質量分析計や近赤外光カメラシステムなどの先端技術を利用し,「NIR-PIT」の実用化を支援する計測技術の研究開発を進める。
「NIR-PIT」は,適用可能な抗体の拡大や転移したがんの効果的な治療など,さらなる技術進歩にも期待が寄せられている。同社は,独創的な分析計測技術により,この手法の早期実現に貢献することを目指すとしている。