東京大学の研究グループは,機械学習の転移学習という技術を活用して人工知能が繰り返し成長することで,物質の界面の構造を決定するための計算コストを1/3600まで削減することに成功した(ニュースリリース)。
界面は物質の電気伝導性やイオン伝導性,耐久性など多くの機能に決定的な役割を果たしている。界面の構造は結晶とは異なっており,その構造が界面における機能の起源となる。つまり,界面の機能を理解するためには,界面固有の構造を明らかにすることが不可欠となる。
一方で,同じ物質でも無数の種類の界面が存在し,それぞれの界面が異なる構造をもっている。さらに,その中のたった一種類の界面にも,数千~数万個という候補構造が存在しており,従来はすべての候補構造について理論計算を行ない,候補の中から最も安定なものを決める必要があった。そのため,色々な種類の界面の構造を網羅的かつ系統的に決定することは非常に困難とされてきた。
近年,情報科学手法を物質科学の分野で利用するマテリアルズインフォマティクスという分野の研究が世界的に行なわれている。研究グループでは,クリギングという機械学習の手法を利用して人工知能を作成し,界面構造を探索させる手法を開発してきた。
今回,新たに転移学習という手法をクリギングに組み込み,転移学習を利用するために3次元だった従来の探索空間(パラメータ)を74次元に拡張し,この手法の有効性を確認するために,過去に報告のある鉄の33種類の界面の構造を決定した。それらすべての界面の構造を決定するためには,1,650,660回もの理論計算が必要だったが,今回の手法で計算コストを約1/3600まで削減し,462回の計算ですべての界面構造を決定することに成功した。
転移学習なしのクリギングでは,1,241回の理論計算が必要だったが,知識を転移するたびにより賢くクリギングを行ない,計算回数は減少し,転移学習なしの場合と比較すると約3倍速く探索を終えることができた。初めは不完全な知能が“賢く”なり,より多くの界面構造をより速く決定したといえる。
現在工業的に使用されている物質の多くにおいて界面は重要な役割を果たしており,物質開発のスピードを上げるためには,界面の構造を決定し,その機能を理解することが不可欠で。今回開発した手法を利用することで,界面の構造をより効率的に決定することができ,物質の開発スピードが加速されることが期待されるとしている。