東北大学の研究グループは,層状半導体GaSeが,従来のGaAsに比べて10倍以上大きなスピン軌道相互作用を示すことを発見した(ニュースリリース)。
グラフェンは,機械的強度,熱伝導,移動度は高いが,エネルギーギャップがゼロであることから原子層トランジスタとしてON/OFF比を大きくすることが出来ない。一方,GaSeなどの III-VI族層状物質半導体は,直接遷移型のエネルギーギャップが有限で比較的移動度が高いことから原子層トランジスタを目指した研究が行なわれている。
また,直接遷移型半導体である特性を活かした薄膜フォトディテクター,非線形光学効果を用いた室温テラヘルツ波発生源としての研究も行なわれている。最近は圧力印加によるトポロジカル絶縁体転移や,電界制御による強磁性転移が理論的に予言されている。
スピン軌道相互作用はトポロジカル絶縁体や強磁性体の磁気異方性等に重要な役割を果たすとともに,電子スピンの電気的操作を可能にするが,GaSeのスピン軌道相互作用の起源について実験的な知見はなかった。
研究グループは,作製したGaSe薄膜トランジスタについて,弱反局在理論とのフィッティングからスピン軌道相互作用の強さを評価したところ,III-VI族層状半導体GaSeは,同程度のエネルギーギャップ,価電子帯のスピン分離をもつIII-V族半導体GaAsに比べて10倍以上スピン軌道相互作用が強くなることを見いだした。また,バックゲート電圧依存性から,ラッシュバ型のスピン軌道相互作用であることが確認された。
一方,原子層GaSeではゲート電圧によって磁性体に転移することが理論的に予言されており,電界による磁性体転移とラッシュバ効果を組み合わせると磁性体を用いることなくGaSeのみで全GaSeスピントランジスタを構成することが可能となることが期待されるとしている。