宇宙航空研究開発機構(JAXA)の国際共同研究グループは,硬X線観測装置を搭載した太陽X線観測ロケット FOXSI(Focusing Optics X-ray Solar Imager)と太陽観測衛星「ひので」の観測データから,一見太陽フレアが起きていないように見える領域でもナノフレア(微少なフレア現象)の発生していることを示すことに成功した(ニュースリリース)。
太陽にはコロナと呼ばれる高温で希薄な大気が存在する。およそ5800Kの太陽表面の上空に,なぜ数百万Kという高温のコロナが存在するのか,どのようにコロナが数百万Kまで加熱されるのかはいまだ解明されていない。熱源から離れるほど熱くなるというこの逆転現象は「コロナ加熱問題」として知られる。
コロナを加熱する仮説の一つに,微少なフレア現象であるナノフレアが頻繁に発生することによってコロナに熱が供給されるという有力な仮説がある。ナノフレアが発生している場合には,1000万K以上の超高温プラズマが存在することがシミュレーションで予言されているが,その存在を確実に示す観測結果はなかった。
国際共同研究グループは,2014年12月に硬X線観測装置を搭載した太陽X線観測ロケットFOXSIを打ち上げた。FOXSIは超高温プラズマからの微弱なX線をこれまでにない高い感度で観測できる。搭載されたX線望遠鏡は米国のチームにより開発され,低ノイズ・高分解能の半導体X線イメージング検出器は日本のチームが開発している。
さらに太陽観測衛星「ひので」でも同時観測を行なった。FOXSIは1000万K以上の超高温プラズマに高い感度を持ち,「ひので」に搭載されたX線観測装置は数百万Kのプラズマに高い感度を持つ。二つの観測装置で調べることで,観測した領域の温度構造を詳しく調べることができる。
今回のFOXSIによる観測では,太陽活動領域でフレアによるX線の増光現象が発生していない状態で,有意な硬X線放射を検出した。研究グループはFOXSIと「ひので」のX線望遠鏡のデータを解析し,数百万度のコロナの主成分と比べてごくわずかながら,1000万K以上の超高温成分が存在することが明らかになった。
これは,一見太陽フレアが起きていないように見える領域でもナノフレアが発生していることを示す結果。これは,コロナ加熱を説明する理論モデルに大きな制限を与えるもの。研究グループは,太陽に超高温のプラズマが常に存在することを示すとともに,X線高感度・高分解能観測の有効性を示すことにも成功した。
ロケット実験の観測時間は6分間と短く,今回は1つの領域についての結果にすぎない。ナノフレアによるコロナ加熱のメカニズムを明らかにするためには,より多くの領域の観測や長時間の観測が必要。研究グループでは,国内での観測衛星の提案や,米国のチームと共同でNASAに衛星計画を提案していく。