東大ら,スピン液体の電子状態を解明

東京大学と埼玉大学大学の研究グループは,三角形の結晶格子(三角格子)を持つ物質で,量子力学的なゼロ点振動により電子のスピンの方位が定まらない「スピン液体」という特異な磁性を持つ金属状態を発見した(ニュースリリース)。

結晶の格子点に一つずつ電子が止まったとき,物質は電気伝導性を示さない。このような物質の多くは,電子のスピンが互い違いに逆方向を向いた反強磁性絶縁体になる。しかし,三角形の結晶格子(三角格子)を持つ物質では,隣り合うスピンがすべて互い違いに並ぶことができない。

このような状況では,極低温まで冷やしても量子力学的なゼロ点振動の効果でスピンが揺らぐ「スピン液体」と呼ばれる絶縁体状態が理論的に指摘され,実際に三角格子の物質において見出されている。スピン液体はこのような特殊な磁気的性質を持っているため,キャリアドープすると,通常の金属とは異なる特異な電気伝導が期待されていた。

研究グループは,電子の数が格子点の数よりも11%少ない(11%のキャリアドープが実現している)と考えられる分子性結晶の電気抵抗率とスピン磁化率の測定を行なった。その結果,期待通りキャリアドープによって絶縁体が金属に変わることが確認されたが,スピン磁化率の振る舞いはキャリアドープされる前のスピン液体の振る舞いとほとんど変わらないことを見出した。

一般に,絶縁体が金属に変わるときには,止まっていた電子が動き出すことから,電子という存在を特徴づける電荷とスピンの振る舞いはどちらも劇的に変わる。

今回の実験結果は,スピンが液体状態にある特異な絶縁体にキャリアドープを行なうと,スピンは特異な液体状態を保持したまま,電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる,すなわち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示している。そして,このような状況で実現している金属が通常とは異なる特異な金属であることが,電気伝導度の温度依存性から明らかにされた。

もともと電子が持っている電荷やスピンなどの性質が,物質中でバラバラに独立して振る舞う現象は,強い磁場下,電子の運動が一方向に限定された物質,物質の表面など特殊な状況で発見され,現代物理学の中心的なテーマへと発展していく。今回の三角格子物質におけるスピン液体金属の発見は,電子の集団運動の新たな側面を明らかにするものであり,今後の発展が期待されるという。

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