産総研ら,シリフォトによるネットワークの運用を開始

産業技術総合研究所(産総研)は,ダイナミック光パスネットワークと呼ばれる新しい省電力ネットワーク技術の開発を進め,今回そのテストベッドを東京都内に構築し実運用を開始した(ニュースリリース)。

現在のネットワークの電子ルーターではデータ量に比例して消費電力が増大する。そこで,産総研はルーターを介さず光スイッチを使用した回線交換と,これをユーザーが快適に活用できる資源管理という技術を組み合わせた「ダイナミック光パスネットワーク」を提案し,その実現に向けて通信関連企業10社とプロジェクト「VICTORIES拠点」を2008年に形成した。

また,低消費電力で信頼性の高い多ポート光スイッチを安価に生産するため,シリコンフォトニクスによる光スイッチの開発を進め,2016年には実用的な光スイッチを開発した。さらに,さまざまな通信機器を,異なるメーカーの製品でも同一システムに搭載できるディスアグリゲーション方式を提唱し,次世代光通信ネットワークシステムを効率的に導入できる標準化を推進した。

ダイナミック光パスネットワークは,ユーザーの要求に基づいて光パスを動的に設定する資源管理システムと光パスの切り替えを行う光ノードで構成される。今回,都内に開設したテストベッドは,4つのユーザー基地局が光ノードと接続されるスター型の構成。光ノードは大手キャリア基地局に設置されており,光スイッチや光増幅器,中間制御装置で構成され,これらは全て1U標準ブレードに収納され,19インチ標準ラックにマウントされている。

光ノードでは,シリコンフォトニクスによる偏光無依存型8入力8出力(8×8)の光スイッチを用いているが,その消費電力は10Wで,同等の電子ルーターの消費電力4kWの1/400に削減されている。8ポートというごく小規模なテストベットでもこのような差があるが,数十万ユーザーの大規模システムではこの差がさらに広がるため、1/1000まで消費電力を抑えることが見込まれる。

複数個の(8×8)光スイッチを規則に従って3段カスケード接続して(32×32)光スイッチを構成し,これを複数個組み合わせれば,10万人規模のネットワークで必要となるポート数が(512×512)の光スイッチも実現できる。さらに,これらと波長選択スイッチという波長単位で切り替えできる光スイッチを組み合わせれば数百万~数千万ユーザーに対応できる。

このテストベッドで10Gb/sの信号を4日間連続して伝送した。通常の条件ではエラーは発生しないので,この実験では伝送路に光減衰器を挿入して信号強度を通常より20dB減衰させ,信号が光スイッチを4回通過する構成にしてエラーの発生頻度を増やしたが,訂正限界を十分下回る安定した特性を示した。

今回構築したテストベッドでは8K映像を非圧縮伝送して本格的な遠隔共存を実現できるが,今回は4K映像機器を用いて非圧縮伝送によるテレセッションシステムを構築した。一般に,システムの伝送による遅延が往復200ms以下であれば自然な会話ができ,60ms以下になると遠隔合奏が可能になる。今回のシステムは,安価な家庭用AV機器を使用しているため,遅延が往復80ms程度だが,自然な会話を楽しむことができるという。

今年度は,大学や企業に今回構築したテストベッドをモニター利用してもらい,遠隔共存の効果的な実施形態について調査を進める。その一環として,8K映像の非圧縮伝送による遠隔医療に取り組む。来年度以降は,一般ユーザーがテストベッドを有償で利用できる体制を構築するとともに,企業による事業化を行ない,ダイナミック光パスネットワークの普及に努めていくとしている。

関連動画:「世界を救う超低消費電力通信技術「ダイナミック光パスネットワーク」とは?」
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