産業技術総合研究所(産総研)と岐阜大学は共同で,薄膜型太陽電池の量子効率スペクトルを高精度にシミュレーションできるソフトウェアを開発し,無償公開すると発表した(ニュースリリース)。
CIGS太陽電池やペロブスカイト太陽電池,CZTS太陽電池など,研究が進む次世代太陽電池は,これまでその膜の品質を簡便かつ定量的に評価する方法が確立していなかった。
量子効率スペクトルのシミュレーションでは,太陽電池を構成する各層の物理膜厚と光学定数を利用して計算を行なう。しかし,これらのデータだけでは薄膜表面が平たんな条件で計算を行なうことになり,量子効率スペクトルに著しい光学干渉の効果が表れる。薄膜型太陽電池を構成する種々の薄膜は,実際には表面の凹凸が実効的に反射防止の機能を果たし,光学干渉効果は顕著に現れない。
そこで,開発したソフトウェアにはこの現象を再現するための新しい光学モデル(ARC法)を実装し,反射防止条件(光学干渉がない条件)での反射スペクトルを計算し利用することができるようにした。なお,このソフトウェアでは,ARC法での反射率以外にも,太陽電池で実際に測定された反射率や表面が平たんな条件での反射率,またそれらの複合による反射率など種々の反射率もシミュレーションに利用することができる。
太陽電池の研究開発,特に研究開発の初期段階においては,光吸収層の品質が十分ではない場合が多い。光吸収層の品質は量子効率スペクトルに大きな影響を与えるため,開発したソフトウェアでは,吸収層の品質を収集長としてモデル化してシミュレーションできるようにした(e-ARC法)。
収集長は,小さくなるに従い量子効率スペクトルの感度が減少することが知られており,このソフトウェアでは収集長を含んだシミュレーションを実現したため収集長により光吸収層の品質を定量的に評価できる。また,実験による量子効率スペクトルとシミュレーション結果を比較(フィッティング)することで光吸収層の品質を定量評価することもできる。
今回のソフトウェアの公開では,シミュレーションソフトと共にCIGS太陽電池,ペロブスカイト太陽電池,CZTS太陽電池を構成する各材料の光学定数を同時に提供しているため,これらの太陽電池ではすぐにシミュレーションを行なうことができる。またいずれの太陽電池においてもガラスなどの基板側(スーパーストレート構造)および反対側(サブストレート構造)からの光入射に対してシミュレーションすることもできる。
今後は結晶シリコン太陽電池,III-V族太陽電池などのバルクタイプの太陽電池,さらにはそれらを含めて多接合型の太陽電池のシミュレーション技術までソフトウェアの適用範囲を拡大する。
また,太陽電池内で現実に起こる電子や正孔の再結合,電子正孔対の発光性再結合による再放射の効果,新しい材料の光学定数の取り込み,さらには実験で得られた量子効率スペクトルのシミュレーションによる自動フィッティング機能の実装などにより,幅広い種類の太陽電池を精密に評価できる技術としての改良を目指すとしている。