300 nm以下の深紫外波長領域においてUV-LEDの実用化が進んでおり,用途開発も展開されている。とりわけ,光源の開発は260~280 nmに集中して活発化しており,用途では殺菌市場に対する期待が大きい。
こうした中,総合水事業会社水ingは水殺菌・滅菌用途を想定し,UV-LED水消毒装置の試作機を発表した。開発は,東京大学先端科学技術研究センター・准教授の小熊久美子氏と共同で取り組んだ。
欧州をはじめとして水処理分野では,処理能力に応じて低圧水銀UVランプや中圧水銀UVランプが利用されており,長らく浄水処理施設をはじめ,下水処理施設,飲料・食品工場における原料水・排水処理などにUVランプを搭載した殺菌システムが導入されてきた。
近年では従来のUVランプに含有する水銀に対し,健康被害や環境汚染につながると懸念され,規制や基準が厳しくなっている。実際,2020年までに水銀含有製品の製造・販売が原則禁止されるという,水銀に関する水俣条約(水銀条約)が採択されており,代替可能な製品の登場によって,従来の水銀含有製品は規制の対象になる。現状,従来のUVランプは水俣条約の規制対象外だが,大容量の水処理に耐えうるUV-LEDが市場に登場すれば,状況は一変する可能性がある。UV-LEDを搭載する装置開発が進んでいるのは,そのような背景もあるからだ。
現在,水ingと小熊氏が共同開発したUV-LED水消毒装置の性能評価が行われている。
具体的には,東大の実験施設で試作機を運転し,水流量や点灯させるUV-LEDの個数を変えたときの殺菌率の確認などを行なっているという。ここで得られたデータをフィードバックし,製品化をめざす。現状の処理能力は16ℓ/分となっているが,当初は中小規模の水処理用途向けに製品化を進め,将来的には大規模な水処理用途向けへと展開させるとしている。
LEDは波長選択が可能で,ON-OFFの繰り返し運転に強い,メンテナンス性にも優れる,小型・軽量化や素子の配置などデザイン面でも自由度が高いなどといったメリットがある。
これにより,水処理用途でも,これまで設置が難しい場所に対応できる可能性がある。また,小型で水銀レスという安全性を享受するものでは,UV-LEDを搭載した家庭用浄水器の市販品も登場し始めている。
水の殺菌効果は光源の波長で決まってくるが,小熊氏によれば,「従来の水銀ランプは低圧のもので254 nm,中圧タイプではおよそ200−600 nmまでの広い波長が得られる。
これに対してLEDは単一波長が得られるため,どの波長が水処理に適するかを調べることができるとしている。
従来の低圧ランプは波長254 nmを放射するが,「殺菌効果は主に紫外線が微生物の遺伝子にキズをつけることで得られるが,実は遺伝子に対して光吸収率が高いのは260~265 nmで,LEDではここを狙うことも可能である。」(小熊氏)という。
加えて,タンパク質に対しては280~285 nmに高い吸収率を持つとされており,この波長の殺菌効果も高いとする。ただ,現状ではUV-LEDの素子自体の性能や費用対効果という観点で,280~285 nmが使い勝手が良いのではないかというのが小熊氏の見方だ。