注目のレーザー塗膜除去技術

レーザー工法とブラスト工法との違い
レーザー工法とブラスト工法との違い

「橋梁などインフラ構造物の劣化塗装や錆を除去する下地処理技術にはショットブラストやディスクグラインダーが使用されているが,新たな工法を開発できないものか」─これを契機とし,建築・塗装工事を手掛けるトヨコー(静岡県富士市)はレーザーを利用した塗膜剥離技術の研究・開発に取り組み,レーザークリーニングシステム「CoolLaser®(クーレーザー)」の実用化に成功した。

光産業創成大学院大学・教授の藤田和久氏らと共同で開発を進めてきたもので,その工法はレーザー光で鋼材表面の塗膜や錆を局所的に加熱し,加熱中心部における溶融・蒸散による直接的な除去と,加熱部周囲との温度差による熱破砕により周辺の塗膜や錆を吹き飛ばす除去の双方により,大型構造物の劣化塗膜や錆を落とすという仕組み。

大型インフラ構造物の維持管理が重要性を増し,その一つとして定期的な塗装・塗替が行なわれ,これによって腐食防止が図られている。塗替え作業は,錆や傷んだ箇所にケレンと呼ぶ下地処理を施し,その後に塗装するというプロセスだが,ケレンは処理方法により,1種から4種までの基準が定められており,1種ケレンは錆や塗膜を完全に削り落とし,部材の表面を出すレベルで,研削材を噴射するショットブラスト工法が適用される。4種ケレンは汚れを拭き取るレベルだが,2種と3種ケレンはその中間で,劣化した膜や錆だけをディスクサンダーやスクレイパーなどで削るというもの。これらの工法は長らく安価で効果的なものとしてインフラ構造物の維持管理を支えてきた。

一方で課題もあると指摘されている。作業員の安全面や環境汚染,騒音といった問題だ。ショットブラストやディスクグラインダーによる工法では,表面の塗料が飛散するため,塗料の中に含まれている鉛やPCB,クロム類などの有害物質を作業員が吸い込む恐れがある。また,研削材と塗料が混ざるため,作業後は産業廃棄物として処理する必要があるほか,有害物質の分離回収といった負担が大きくなる場合もある。さらに鋼表面に高速で研削材を叩きつける音の発生がある。

トヨコーが開発したCoolLaser®は,このような問題の解決を図るもので,レーザー光を照射するのみのため,二次産廃物が抑制できるとし,同社によれば,ブラスト比で100分の1以下としている。

開発したレーザークリーニング用ヘッド
開発したレーザークリーニング用ヘッド

CoolLaser®は,新開発のレーザークリーニング用ヘッドとCW高出力ファイバーレーザーを組み合わせたシステムで,レーザー光をヘッド部で特殊なプリズムを透過して屈折させ,高速回転させることで円形照射する。レーザー光によって蒸散した塗料は集塵機で吸引するが,ヘッドには吸引機能も備えている。

現在は原子力発電所における除染に対する研究や道路・鉄道橋梁に対する施工に向けて取り組んでいる。また,その活用は溶接ヤケやスラグの研磨も想定されている。さらにヘッドをロボットに取り付けることで自動化に対応させ,製造分野への応用も考えられている。開発したシステムは2017年からレンタル販売を開始する予定としている。