物質・材料研究機構(NIMS)は,電圧でなく磁気でイオンを輸送するという,従来と全く異なる原理で動作するトランジスタの開発に成功した (ニュースリリース)。
電気エネルギーと化学エネルギーを変換する電気化学デバイスは,電池やキャパシタ,センサーなどとして実用化されている。これらのデバイスは,電解質中のイオンを移動させることで動作するが,イオンの駆動には電圧を印加する必要があるため,電力源が確保できない環境では利用しづらいという問題がある。
そこで研究グループは,磁性イオン液体 (1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラクロロフェラート) に注目。磁性イオン液体は,これまで“液体の磁石”として研究されていたが,電荷を持ったイオンとしての性質は注目されていなかった。
研究グループは,磁性イオン液体を,磁石をつかってイオン輸送が可能な液体としてとらえ,これを電解質として用いた電気二重層トランジスタを作製した。磁場をかけると,電解質中の磁性イオンが移動して,電極間の抵抗が変化することが分かり,磁場のみでトランジスタとして動作させることに成功した。
今回,電磁石を用いて磁場をかけたが,これを永久磁石に置きかえることができれば,省エネルギー情報通信デバイスなどへの展開が期待できる。今後,この成果を基に情報通信デバイスへの応用を進めるとともに,電池やキャパシタなどトランジスタ以外の電気化学デバイスについても,外部電源に依存しない制御を目指した研究を進めるとしている。