AM装置の持続発展に向けて ─造形プロセスの確立を目指しMIAMIプロジェクトが加速!

PEEKによる造形サンプル。写真上はエッフェル塔の造形例だが,低温予熱造形では微細性に優れている。
PEEKによる造形サンプル。写真上はエッフェル塔の造形例だが,低温予熱造形では微細性に優れている。

そこで提案されているのが,低温予熱造形だ。この造形法では,反りを抑制するため,ベースプレートへの固定を必要とするが,高温での厳しい温度制御をしなくても造形できることから粉末材料の劣化を抑えることが可能になる。つまり,低温予熱造形法ではリサイクル率が高まるというのだ。結果として低コスト化を享受することが可能になると期待されている。また,温度制御による反りの抑制は,樹脂材料の特性にも大きく影響を受けるため,樹脂材料の開発に対しても優位性があるとしている。

この低温予熱造形法によりPEEKとPPSの造形実験を行なった結果が,AMシンポジウムにおいて発表された。研究室ではシンラッド社製CO2レーザーを搭載した粉末床溶融装置による造形実験を行なっているが,これまでの実験では造形時に火花や焦げが発生し,さらに造形物の密度が低いという課題があった。これを解決するため,レーザーパワーを制御するとともに,輝度を低くし,ビーム形状をガウシアンモードからトップハットプロファイルに変え,スキャン速度の間隔を低減するなどの対策を図った。

これをPPSの造形実験に適用した結果,密度に関してはガウシアンモードのCO2レーザーの場合,91%であったのに対し,トップハットプロファイルでは94%であったという。また,レーザーの輝度を低くしたことで,火花などの発生が抑制されることも分かった。

一方で,ファイバーレーザーによる造形実験も行なっている。樹脂造形では吸収剤を必要とするが,ガウシアンモードのファイバーレーザーによる造形実験では96%の密度が得られたという。今後はトップハットプロファイルによる造形を行なうとしている。また,低温予熱造形法を実用フェーズに移し,造形プロセスの確立に向け開発を加速させる計画だ。

AM技術は日本では試作用途から始まった。それがビジネスとして確立してきた経緯がある。現在はこれを生産へと活用する動きが活発化している。ただし,従来の大量生産に適用するということではなく,マスカスタマイゼーションを志向しようというものだ。

AMシンポジウムのパネルディスカッションでは,AM技術の新しい用途をテーマとした議論が交わされたが,この中で,「米国GEなどが公表しているAM装置を使って作製した製品を,あのように誰もが作れるとは限らない。上手く作るためには設計を始め,材料特性に合わせたパラメーターの設定が重要で,それを探り当てるまでの努力が必要。AM装置はその努力が報われる機械である。それが製品やビジネスの差別化に優位点を与えることにつながる」との発言が印象に残る。その意味で,このプロジェクトで取り組んでいる研究開発の意義は大きい。今後ここで生まれた成果が付加価値の高い製品・ビジネス創出へのヒントにつながっていくことが期待されている。◇

(月刊OPTRONICS 2016年3月号掲載)