IoTは商機なのか? ─アルプス電気の挑戦─

■流れを変えた「ヘルメット」
転機となったヘルメットへの応用
転機となったヘルメットへの応用

IoTをビジネス化する過程においては,メーカー側とユーザー側が共に難しい決断を迫られる。IoTを導入するためには,ユーザー側は効果が見えないうちに数百万円の導入コストが求められる一方で,メーカー側も「センサーを量産するなら最低でも10万個単位の受注が必要」だからだ。

それまで同社がリサーチしたIoTの応用の中には有力な企画もあったがどれも規模が小さかった。そこで「このまま機を待っていては何も動かない」と考え「我々がユーザー側の投資を引き受けるつもりで,センサーを1つにまとめてIoTを試せる製品を作ってはどうだろうか」と思い立ったのが,このキットを開発する一つの契機となった。

しかしキットを作っても,アプリケーションを提示できなければ画竜点睛を欠くことになる。同社はこれまで,このキットを用いて展示会などで,既存のウェアラブルセンサーへの機能の追加や,室内の環境やインフラのモニタリングをイメージした提案を行なってきた。しかし本当にその提案がユーザーの役に立つのか,イメージを伝えるのが難しいことも少なくなかったという。

そうした中,一つの提案が顧客の反応を大きく変える転機となった。それがヘルメットへの応用だ。これはヘルメットの頭頂部にキットを装着し,気温や湿度から作業者に水分の補給を促したり,姿勢の変化から転倒を検知したりする機能を提案したものだ。

この「センサーを付けただけ」というヘルメットによってヘルメットメーカーはもちろん,「厨房のような高温になる作業現場など,過酷な環境の職場からの引き合いも来るようになった」という。「健康リスク管理という,顧客の潜在的なニーズを具体的な形にすることで,引き合いのレベルは大きく変わった」のだ。

■顧客のニーズに気づく

当初は困難が先に立った同社のキットだが,こうした活動の甲斐もあって昨年後半頃から少しずつ状況は変わってきているそうだ。IoTに関して認知度が高まり,システムインテグレーターや据え付けを行なう業者などともコンセンサスが形成されてきているほか,インダストリー4.0の影響もあって,実際に生産現場で装置の稼働状況の調査などにIoTを応用する事例が出始めているという。

実際に顧客のインフラにIoTの機能を追加するためには,システムに入り込むことがハードルとなるが,「これ(キット)ならば貼り付けるだけで使える。気軽にIoTを試すことができる」と自信を見せる。

「このキットはあらゆるものに付けることができる。例えば椅子に付けても良い。そうすれば椅子の稼働状況が分かり適正な配置や数が分かるかもしれない。顧客がどういうところに困っていて,どこに課題があるかというのは,実際に(IoTを)物にしてみて,はじめて気づいてもらえる。そう考えるとやることはたくさんある」。

同社ではこのキットを通じてIoTの需要を喚起し,そこから例えばセンサーだけでも受注につなげたいと考えている。

「我々としてはお客さんが幸せになる,メリットがあるものをどうやって早く見つけ出せるか。そのためのセンサーは何なのか,それを探し出すのが当面の課題。これで良くなるということがはっきりしないと設備投資は難しい。一か八かでは無く,スモールスタートで改善をしながらIoTを試せるようにこの製品でしたい」という。

同社のIoT事業は緒に就いたばかりだが,既に数百法人(キット販売は法人が対象)がこのキットを導入し,IoTを試しているという。小さなセンサーをこのキットを通じて如何に売り込むか,今後の展開は注目に値するだろう。◇

(月刊OPTRONICS 2016年2月号掲載)