IoTという言葉がビジネスの世界でトレンドとなって久しいが,実際にIoTをキーワードにビジネスを展開し,成功を収めている企業はどれくらいあるのだろうか。
多数のセンサーや装置をネットワークで結び,遠隔地からデータをリアルタイムで取得したり,装置の制御を可能にしたりするIoTにおいて,プロバイダーとしての光産業はセンサーの供給において最も期待されているだろう。
しかしIoTに用いられるセンサーは最新の技術を用いた高価なものだけではない。むしろ小型で安価なものが求められることも多いため,どうしても薄利多売のビジネスになってしまう。よって,あらかじめ利益が見込めるアプリケーションを顧客に提示することが重要になるが,それこそがIoTビジネスの一番難しい部分だと言えるだろう。
■アルプス電気の試み
電子デバイスメーカーのアルプス電気では,数種のセンサーを一つの基板に実装したIoTの開発キット「IoTスマートモジュール」(以下キット)を昨年の秋より9,800円という価格で発売している。
このキットは,気圧,温湿度,UV/照度,6軸の4つのセンサーと,制御用のマイコン,通信用のBluetooth Smartデバイスを,わずか18.5×5.6×3.4 mmの基板上に実装したもの。ボタン電池を用いた電源と共に,43.9×27.2×10.8 mmの透明樹脂性のケースに収められている。
スイッチを入れるだけですぐに測定を始めることができ,測定データは,アプリをインストールしたスマートフォンやタブレットに送信される。電池の寿命は,各センサーが1分に1回ずつの頻度で測定信号を発信する場合で約1年間としている。
各センサーの大きさは2~3 mm角で,高さは全て1 mm以下。このうちUV/照度センサーの仕様をみると,UVセンサーの測定波長域はUV-Aで,測定範囲は0~20.48 mW/cm2,感度は0.005(mW/cm2)/LSB。周囲光は同じく0~81900 lx,20 lx/LSBとなっている。
■スマホが実現するIoT
同社は何故このような製品を開発し,IoT市場でどのような戦略を展開しようとしているのだろうか。同社の民生・新市場業務部 担当課長の稲垣一哉氏によれば,同社にはセンサー事業と通信事業があり,IoTが話題となる前から,両者を合わせて新事業を開拓しようとしてきていた。しかし,実際に製品化を進めると「コストやバッテリーの問題があり,思うような製品を実用化できなかった」という。
ところが,ここ2~3年でスマートフォンの薄型化が急速に進んだことで状況が変わってきた。最近ではスマートフォンの大画面化と薄型化が進むと同時に,バッテリーの大型化によってデバイスの実装面積が小さくなり,さらに徹底した低消費電力化の要求もあって,デバイスの一層の小型化・低背化・低消費電力化が進展してきたからだ。
こうした背景が,スマートフォンの各種デバイスを手掛けてきた同社にとって「キットを実用化する推進力になった」というのだ。