東工大,複数の金属からなる電子化物を発見

著者: sugi

東京工業大学の研究グループは,電子化物のコンセプトをさらに拡張すべく,金属元素から構成される金属間化合物を対象に,結晶構造と電子分布の関係を検討して,電子化物とみなせる物質群の発見と,それらがアンモニア合成触媒や超伝導という物性の発現につながることを見出した(ニュースリリース)。

研究グループは,2003年,12CaO・7Al2OV3(C12A7セメントの構成成分)を使って,室温・空気中で安定なエレクトライドの合成に初めて成功。アニオンを電子に置き換えたことに起因する低仕事関数だが化学的に安定というユニークな物性を報告してきた。2011年には電子化物ガラスを,2013年にはアニオン電子が層間に存在する2次元電子化物Ca2Nを報告するなど,電子化物の物質科学の新領域を開拓してきた。

今回,Mn5Si3型をもつ新金属間化合物Nb5Ir3を合成。これは,結晶構造中にNb原子から構成される1次元化チャネルがあり,その中にアニオン電子も存在する電子化物であることが分かった。この物質は,超伝導を示すTc(臨界温度)は9.4Kだった。電子化物の超伝導体は,2007年にC12A7:eで見出されており,今回が2例目となる。

電子化物は,有機系で見出され,無機物,単純金属,そして今回,金属間化合物へと広がった。今後,さらに新しいコンセプトの電子化物が発見され,学術のフロンティアの拡大とともに応用に繋がる新物性が見出されることが期待されるとしている。

キーワード:

関連記事

  • 東大ら,電子の自転公転のもつれを放射光X線で観測 

    東京大学,高輝度光科学研究センター,近畿大学,東北大学,理化学研究所は,ランタノイド元素周りに存在する4f電子の空間的な広がりを世界で初めて直接観測した(ニュースリリース)。 4f電子は,4f軌道に入る電子で,外側の軌道 […]

    2025.10.14
  • ノーベル物理学賞、量子トンネル効果などの基礎を築く

    2025年のノーベル物理学賞は,ジョン・クラーク氏(カリフォルニア大学バークレー校),ミシェル・H・ドゥヴォレ氏(エール大学ほか),ジョン・M・マルティニス氏(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)の3氏に授与されることが […]

    2025.10.07
  • 愛媛大,光子と電子の中間のような電子を実現

    愛媛大学の研究グループは,有機分子を使い,通常の物質にはない性質を示す,光子と電子の中間のような,ふしぎな電子を実現することに成功した(ニュースリリース)。 今回こうした電子が発見された一連の物質には,新しく合成された物 […]

    2025.09.09
  • 阪大ら,重い電子が量子もつれ状態にあることを発見

    大阪大学と広島大学は,重い電子系と呼ばれる物質群の一つであるセリウム・ロジウム・スズ合金(CeRhSn)の中で強く相互作用した電子が強い量子もつれ状態にあり,その寿命がプランキアン時間に従うことを初めて観測した(ニュース […]

    2025.08.26
  • 東北大ら,高輝度放射光で超伝導体中の電子振動解明

    東北大学,量子科学技術研究開発機構(QST),兵庫県立大学,産業技術総合研究所,物質・材料研究機構は,−163℃で超伝導を示す銅酸化物超伝導体のプラズマ振動の性質を解明した(ニュースリリース)。 超伝導とは,ある特定の温 […]

    2025.05.14
  • 阪大,原子核の中で陽子と中性子が渦まく運動を発見

    大阪大学の研究グループは,原子核の中で陽子や中性子が3次元的な渦をまく運動状態を,世界で初めて発見した(ニュースリリース)。 液体や気体の流れに渦と呼ばれる運動がある。身近なものでは,カップの中のコーヒーをかき混ぜたとき […]

    2024.12.16
  • 早大ら,高温超伝導体の光学的異方性の起源を解明

    早稲田大学と東北大学は,世界で初めて銅酸化物高温超伝導体Bi2Sr2CaCu2O8+δ(Bi2212)の紫外・可視光領域における大きな光学的異方性の起源と結晶構造の関連性を明らかにした(ニュースリリース)。 Bi2212 […]

    2024.11.20
  • 千葉大ら,高次光子の量子情報を電子スピンへ転写

    千葉大学,産業技術総合研究所,東北大学,大阪公立大学は,空間偏光構造を持つ光の粒(光子)の量子力学的な情報を,半導体中の電子の空間スピン構造へ転写することに成功した(ニュースリリース)。 光子と電子は有望な量子ビットとし […]

    2024.10.24
  • オプトキャリア