名大ら,網膜手術用シミュレータを開発

名古屋大学と東京大学の研究グループは,人間そっくりな眼科手術シミュレータを開発した(ニュースリリース)。

網膜硝子体手術において,万が一,網膜に強い力がかかると最悪の場合,失明する可能性がある。そのため,手術モデルとして,内境界膜(ILM)剝離術とマイクロカニュレーション手術が要求されている。前者は網膜上面の薄膜を剥がす手術で,後者は網膜内の毛細血管に注射する手術であり,どちらも眼底硝子体手術として難手術と言われている。

従来,この様な手術のトレーニングでは,卵殻膜やバーチャルリアリティ(VR)技術が利用されていた。しかし,前者は眼球構造とは全く異なっているため,再現性が乏しく,後者においては,高い再現性を有していますが,新規の治療機器をバーチャル空間に再現することに多くの時間が必要である,といった問題があるため,研究では実際の手術を同様に水中でILMを剥離することの可能な眼球モデルの開発を行なった。

後者のマイクロカニュレーション手術の問題点は,曲面である眼底構造中に,100㎛以下の毛細血管を模倣したマイクロ流路の構築が困難であったこと。研究グループは,微細加工技術により,眼底毛細血管の構築を行なった。

一方,市販の眼科手術シミュレータには,手技を評価するための計測システムがなかった。そのため,手技評価には,熟練医の判断等によることが大きく,客観性が乏しい。また,多くの眼科医により,定量的な評価が可能なシステムに対する要望が多く寄せられている。そのため,研究では網膜への負荷を低減するための変形表示機能の開発・統合を行なった。

このうち変形表示機能に関しては,鉗子等が網膜部に押し付けられることによる変形を感知し表示する機能を,光弾性技術を用いて搭載することに成功した。眼科手術シミュレータ内に搭載された近赤外LEDの光を円偏光に変換し,網膜部を透過した円偏光を偏光カメラで検出する。4方向の偏光が撮影可能な偏光カメラにより,模擬網膜に印加された変形を偏光の位相差変化として算出する。

これにより,手術シミュレーション中に模擬網膜に印加された変形分布を表示することが可能になった。今後は,変形量や応力が定量的かつリアルタイムに計測可能なシステム構築を行ない,手技の定量的評価システムの統合を目指す。

以上から,開発した眼科手術シミュレータを用いることにより,従来では行なうことの出来なかった手技の模擬と評価を行なうと共に,一連の手術トレーニングを行なうことが可能になった。今後は,45度まで眼位を調整することが可能になったため,緑内障手術が可能な眼球モデルの開発を行なうとしている。

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