日本電信電話(NTT)とKDDI総合研究所(KDDI総合研究所),住友電気工業(住友電工),フジクラ,古河電気工業(古河電工),日本電気(NEC),千葉工業大学は,現在広く使用されている光ファイバーと同じ細さで,1本に4個のコアを有するマルチコア光ファイバー(MCF)を用い,世界最大の118.5Tb/s伝送を実現した(ニュースリリース)。
既存光ファイバの伝送容量限界の打破に向け,1本の光ファイバーに10個以上のコアを配置したMCFで伝送容量を増やす研究開発などが行なわれてきた。しかし,このようなコア数の多いファイバーでは,ガラスの直径が既存の光ファイバーよりも太くなるため,製造技術の飛躍的な向上と周辺技術の更なる研究開発が不可欠で,実用化には10年程度を要すると言われてきた。
そこで研究グループは,MCF技術の早期活用に向け,1本の光ファイバーに配置するコア数は4~5個にとどめるものの,現在使用されている光ファイバーと同じ国際規格に準拠した細さで,既存技術が活用しやすいMCFの研究開発を進めてきた。
今回,ガラス直径と被覆直径を,現在の光ファイバーの国際規格に準拠する125±0.7µmと235~265µmとして光ファイバー1本あたりの製造性を維持するとともに,1つ1つのコアが汎用SMFと同等の伝送品質を有するMCFの実現を目的とした。MCFでは隣り合うコア間の光信号の干渉を十分に低減する必要があり,NTTおよびKDDI総合研究所は125µmのガラス直径で4~5個のコアを配列できることを明らかにした。
これに基づき,住友電工,フジクラ,古河電工にて,長さ100km以上のMCF(4コア)を各社で作製した。いずれのMCFも1260nm~1625nmの波長範囲で使用可能で,汎用SMFと同等の伝送特性を実現できた(波長1550nmのモードフィールド径(MFD:Mode Field Diameter)が約9~10µm)。
作製したMCFを20~40kmのピースに分割し,意図的に製造元が異なるMCFを相互接続し,長さが104~107kmの3つの伝送区間を構築した。そして,汎用SMFと比べても遜色のない低損失なマルチコア伝送路を複数メーカーの光ファイバーで実現した。各区間の波長1550nmにおける4コアの平均伝送損失は,MCF同士を融着接続した接続点の減衰量を含めても0.22dB/km以下,3区間全長での平均損失は0.21dB/kmだった。
さらに,上述した3つの伝送区間をつなげてマルチコア伝送路を構築した。各々の伝送区間の終端にマルチコア光増幅器を接続し,各区間の光の減衰を補償した。マルチコア光増幅器には消費電力の低減が期待されるクラッド励起を適用し,今回の光増幅器では約16%の低減効果を確認した。116波長の16QAM信号を生成し,316km伝送後の伝送品質を評価した。
MCFの各コアとの入出力は,NTTおよび古河電工で作製したFan-In・Fan-Outデバイスを用い,マルチコア伝送路の入出力端とFan-In・Fan-Outデバイスは,千葉工大とNTTで作製した既存のMU形およびSC形インタフェースを有する光コネクタを用いて接続した。この光コネクタはマルチコア光ファイバの4つの対向するコアが適切な対応で接続されるように,光ファイバーの回転軸方向の調心を行なう機能を有している。
伝送実験の結果,全てのコア・全ての波長で伝送限界を上回る良好な伝送品質を確認し,標準外径の光ファイバーを用いた伝送実験では世界最大となる118.5Tb/sの伝送容量を達成した。これらの結果は,現在の光ファイバーの伝送容量限界を上回る大容量伝送システムが,標準外径を有するマルチコア光ファイバーを用いて実現できることを示すもので,研究グループでは,2020年代前半における実用化を目指す。