人間文化研究機構 国文学研究資料館(国文研)と,富士通グループのPFUは,「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」(歴史的典籍NW事業)の一環として,歴史的典籍(古典籍)に特化したブックスキャナの実証実験を実施した(ニュースリリース)。
近代以前に作られた古典籍は,作成から時間が経過しているため,紙そのものの劣化や,災害による消失のリスクが大きな課題となっている。そこで,古典籍の画像を電子化し,原本で見た場合と同程度の解像度で保存していくことが求められている。そのため,同事業では日本古典籍約30万点を画像データ化してデータベースの構築を行ない,古典籍の保存を進めている。
しかし,古典籍の電子化作業においては2つの課題がある。1つ目は,古典籍の取り扱いや電子化方法などの専門性が高く生産性が低いこと。2つ目は,古典籍が日本各地に点在し,持ち出せないことが多いこと。そのため,現場に機材を持ち込み,撮影ブースを設営する必要があるため,準備と電子化作業に時間を要している。
国文研とPFUは,これらの課題を解決するため,2016年1月から3年間の共同研究契約を締結し,古典籍が保管されている鬪雞神社に可搬型ブックスキャナを実際に持ち込み所蔵本の電子化を行なう,初めての実証実験に至った。
2017年7月3日,鬪雞神社内に可搬型ブックスキャナの試作機を持ち込み,同社が所蔵し,様々な学問の研究で知られる南方熊楠が研究に利用した「今昔物語集」の写本5冊,計211イメージを電子化した。
この試作機はバッテリーを内蔵した可搬型ケースに組み込まれているため,寺社や個人宅など,古典籍の所有者の現場にスキャナとPCを持ち込むだけで,容易に電子化作業を実施できる。また,上からスキャンする方式を採用しているため,フラットベッド式のスキャナを利用する場合と比較し,古典籍へのダメージを最小限に抑え,書籍に優しく簡単な操作で電子化を実現できる。
この実証実験の結果,撮影ブースを使った古典籍の電子化作業は,一般的に,撮影ブースの設営や機材調整,撮影などで半日~1日程度かかるが,可搬型ブックスキャナを用いた実証実験では,約2時間で「今昔物語集」写本5冊,計211イメージの電子化作業を完了することができ,電子化作業を大幅に効率化できることが確認できた。
また,簡単な操作性により,電子化作業の習熟度によらず作業を行なうことができたほか,専用の原稿台により,古典籍を傷めることなく,電子化を行なうことができた。データは,古典籍の電子化品質として十分な24ビットフルカラー,400dpiを得ることができた。