富士通と富士通研究所は,W帯(75から110GHz)を用いた大容量の無線ネットワークに適用可能な,窒化ガリウム(GaN)高電子移動度トランジスタ(HEMT)を利用した送信用の高出力増幅器(パワーアンプ)を開発した(ニュースリリース)。
長距離・大容量の無線通信を実現するには,広い周波数帯域を利用できるW帯などの高周波帯を用いて,送信用パワーアンプの出力を増大させることが有望。一方で,増大する通信システムの消費電力を低減させるパワーアンプの効率向上も求められていた。
今回,GaN-HEMTデバイスのソース電極・ドレイン電極の直下に,高い濃度で電子を発生させる柱状のGaN層(GaN Plug)を埋め込む製造プロセスを用い,ソース電極・ドレイン電極とGaN-HEMTデバイス間に電流が流れる際の抵抗を,安定して従来の10分の1に低減できるデバイス技術を開発した。
ソース電極から出た電子は,できるだけスムーズに2次元電子領域に運ぶ必要があるが,従来の構造では電子供給層がバリアとなり,ソース電極と2次元電子の間の電気抵抗が高くなっていた。この技術を適用することにより,大電流をトランジスタに流すことに成功した。
なた,電子走行層の上側の境界面を高速で移動する2次元電子は,ゲート電極が閉じた時に電子が下側を迂回することで漏れ電流となり,パワーアンプの動作効率の悪化の原因となっていた。一般的に,電子走行層の下方に障壁層を配置することにより漏れ電流を低減することができるが,その場合2次元電子の量も減り,ドレイン電流の低下を招いてしまう。
今回,InGaNからなる障壁層を電子走行層の下方に効果的に配置することにより,高いドレイン電流を維持したまま,動作時の迂回電子が低減し,漏れ電流を大幅に低減させることに成功した。
これまでのW帯における送信用パワーアンプの出力密度は富士通研究所が開発したゲート幅1mmあたり3.6Wが世界最高だったが,今回開発した技術による,94GHzで動作するように設計したパワーアンプは,出力密度がゲート幅1mmあたり4.5Wへと大きく向上した。また,漏れ電流の低減により,従来技術と比べ26%減の低消費電力化を実現した。
このパワーアンプを用いることで,2地点間を無線通信システムでつなぐ場合に,10km以上かつ10Gb/s以上の長距離・大容量通信を実現できる見込みだとしている。