広島大学と高輝度光科学研究センターの研究グループは,導電性高分子の配向膜を簡単に作製する世界初の手法を開発した(ニュースリリース)。
導電性高分子をはじめ電気を流す有機物は,タブレットやスマートフォンなどの有機EL,次世代のスマートデバイス(体に貼れるセンサーや端末など)の基幹材料となっている。導電性高分子の配向は,センサーの応答速度,画面の明るさ,省電力化に,数100倍の性能向上として寄与するため,これらのデバイスの性能向上に重要となる。
研究グループでは,基板(例えばガラス板)を綿の布でブラッシング後,導電性高分子溶液をスピンコートするだけで,一軸配向した導電性高分子の配向膜(厚さ30㎚)を得る手法を開発した。主な特長は,以下の3つ。
1)常温で行なう極めて簡単な手法で,高温で分解しやすい有機物を,配向膜ならびに基板の材料として利用できる。また,常温・空気中で行なうため,コスト削減につながる。更にロール・ツー・ロール法による配向膜製造も期待される。
2)水につけると配向膜は基板から簡単にはがれる。はがした配向膜は好きな場所に移して利用できる。
3)配向膜に電気を流すとEL発光し,更に偏光している。その他,配向のメカニズムは基板に付着したセルロース(綿や紙を構成している高分子)のテンプレート効果であること,既存の手法(摩擦転写法)と比べ配向度が17倍高くなることもわかった。なお,導電性高分子の配向膜作製の新しい手法のため,「ソフト摩擦転写法」と命名された。
研究では,主に有機太陽電池と有機ELでよく用いられる導電性高分子であるP3HTとMEH-PPVで実験を行なった。それ以外の分子や複数の基板でも行なったところ,それぞれについて配向膜が得られた。今後は,更に多くの導電性高分子や基板で,配向膜の作製と構造解析の研究を,発展させる予定だとしている。