筑波大学の研究グループは,イスラエル工科大学との共同研究により,三重項状態のシクロブタジエンの分光学的観測に成功した(ニュースリリース)。
芳香族性は有機化学の基本概念の一つで,π電子を持つ環状化合物は高い安定性を有し,ベンゼンに代表されるように多くの有機化合物の基本骨格となっている。
しかし,π電子の数によっては,逆に不安定化(反芳香族性)する。4個の炭素が環状になっているシクロブタジエンは反芳香族化合物で,極めて反応性が高く,長方形の構造(一重項状態)が最も安定であることが知られているが,理論上は正方形構造(三重項状態)のものも存在することが予測されている。
研究では,4つのケイ素置換基によって安定化されたシクロブタジエンを用いて,温度可変電子スピン磁気共鳴法によって,初めて三重項シクロブタジエンの観測に成功した。
ケイ素置換基を導入したシクロブタジエンは熱的に安定で,固体状態での温度可変電子スピン共鳴スペクトルの測定が可能。これを350K(77°C)以上に加熱したところ,三重項種に特徴的なEPRシグナルを観測することができた。
このシグナル強度の温度依存性を調べることにより,一重項—三重項エネルギー差は13.9±0.8kcal/molであると決定した。これはシクロブタジエンの正方形三重項と長方形一重項を両方とも実験的に確認した初めての成果で,化学の教科書に新たなページを加える発見だとしている。
また近年,有機エレクトロニクスのデバイス開発において,π電子系化合物のもつ特性の理解が必要不可欠であ
ると考えられており,この成果は今後,π共役系分子を合成する場合において,新たな分子設計指針となると期待される。