広島大学,大阪府立大学,東京大学を中心とする研究グループは,高温超伝導を担う電子が,格子振動と最も強く結合している証拠をとらえた(ニュースリリース)。
電力エネルギー・エレクトロニクス・磁気浮上鉄道の分野における革新を担う根幹技術として,高温超伝導への期待が高まっているが,最大の課題として,高温超伝導を担う「立役者」の特定が残されていた。
鉛やアルミニウムでは,反発しあう電子の間を格子振動が仲介することで,超伝導が発現する。しかし,銅酸化物における高温超伝導を,格子振動で支えることができるのか,疑問が生じていた。
そこで,電子が何らかの振動と強くやりとりしている痕跡が,電子の速度の変化として観測されたため,その正体の特定に向けて、多くの研究が行なわれてきた。候補として残されたのが,磁気的な共鳴振動と,酸素座屈型の格子振動だが,両者のエネルギーが近いために特定が難しく,論争が15年以上も続いていた。
研究グループは,広島大学放射光科学研究センターにおいて,高輝度のシンクロトロン放射光と世界最高レベルの高分解能・角度分解光電子分光装置を組み合わせて,ビスマス系銅酸化物高温超伝導体(Bi2Sr2CaCu2O8+δ,Bi2212)の中の電子の速度を観測し,電子の背後にいる「立役者」の決定的な証拠を捉えることに成功した。
まず,やりとりの痕跡とされる電子の速度の変化を精密に観測し,細い構造を分離することに成功した。そして,極度に正孔添加を行なったところ,それぞれの構造のエネルギーが移動して視界が広がり,やりとりの痕跡の全貌が姿を現しました。
電子の速度における構造の強さとエネルギーの分布が,格子振動の分布と一致したことから,電子と最も強く結びついているのが格子振動であることが判明した。
この研究により,電子の背後の「立役者」をめぐる長年の論争が解決され,電子と格子振動の間のやりとりの様子が鮮明に描き出された。この成果は,高温超伝導の研究を次の段階に導く突破口として,基礎および開発研究への波及効果が見込まれる。
今回得られた知見は,電子と格子振動のやりとりの観点から,さらなる高温超伝導体の探索を導く指針を与え,高温超伝導体を用いた無損失送電線や超強力電磁石の材料開発を促進するものだとしている。