早稲田大学は,カナダ国立研究機構,独マックス・ボルン研究所と共同で,アト秒レーザー(高次高調波)によるネオン原子の光イオン化過程で生成した,ほぼ純粋なf-軌道電子(電子波動関数)の密度分布と,その位相を分けた波動関数に相当するイメージの直接測定に成功した(ニュースリリース)。
またさらに,イオン化した電子波束がどのような位相と振幅を持つ波動関数から成っているかを同定する方法を開発した。
20世紀初頭に発達した量子力学によれば,原子・分子や電子などの極微の物質は波としての性質を持ち,波動関数(Ψ)で表される。
Max Bornの解釈では,電子波動関数の自乗(|Ψ|2)はその領域に電子が存在している確率を表すが,波動関数そのものは複素数で記述され,振幅と位相によって特徴付けられている。例えば,波動関数の位相は,化学反応の選択性などを理解するのに重要だが,直接の測定は困難だった。
研究グループは,高次高調波をアト秒の時間分解測定に使うために必要だった複雑な過程を大幅に簡略化し,かつ高精度で原理的に時間差が変化しない,新たなアト秒光学系を開発した。この装置系では,アト秒高次高調波と赤外光の時間差を50アト秒以下の精度で簡単に安定・制御できる。
実験では,発生したアト秒高次高調波(パルス列)と赤外光(基本波)とを組み合わせて試料をイオン化し,放出された光電子の運動量分布を Velocity Map Imaging と呼ばれる光電子運動量測定装置で測定した。
今回の研究により,電子波動関数とその変化のイメージングを元にした新たなアト秒テクノロジーの発展が期待されるとしている。また,研究で新規開発したアト秒光学系は,簡便かつ高安定でアト秒時間分解分光が可能になるので,固体や表面をターゲットにしたアト秒顕微分光法に発展できるという。