科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業において,電気通信大学の研究グループは,高い制御性を持ち,位相が極めて精密に揃った広帯域スペクトルを持つ光波を発生するレーザー光源(光コム)を用いた新しい高速イメージング方法を開発した(ニュースリリース)。
3次元形状計測法における距離計測の研究においては,近年,高い制御性とコヒーレンスを持った超短パルス列を用いる光コムにより,計測精度とダイナミックレンジ(最小計測距離と最大計測距離の比)が飛躍的に向上した。
しかし,従来法ではレーザー光を被測定物に照射し,そこから反射した光が戻るまでの時間に基づいて距離を計測するため,被測定物全体の形状を測定するには光を照射する位置を変えながら順次計測する必要があった。
さらに,科学的・産業的に有用なマイクロメートル以下の高精度測定を行なうためには,フェムト秒などの超高速時間の測定が必要だが,直接測定することができないため,基準との相対遅延時間を連続的に変化させながら測定する必要があった。
そのため,被測定物について3次元形状の瞬時計測と広範囲・高精度計測を両立することは容易ではなく,測定は静止対象物に制限されるという課題があった。
これらの課題を解決するために研究グループは,計測対象までの距離情報を色(周波数)情報に変換して取得する,高精度で広範囲に適用できる瞬時イメージング方法を開発した。
具体的には,ファイバレーザーで発生させた光コムから繰り返し出射される超短パルス列を2つに分け,一方の色(周波数)が時間とともに規則的に変化するパルス光(チャープしたパルス光)を被測定物に照射し,その反射により戻ってきた光を,もう一方の色(周波数)が変化しないパルス光(チャープのないパルス光)と干渉させる。干渉パターンをカメラで撮影し,簡単な解析から距離情報を抽出する。
実際に,この方法を用いて,既知の段差を持つ被測定物(ブロックゲージ)の段差プロファイル形状計測を行ない,瞬時に3次元形状を取得できることを原理的に検証した。光コムから繰り返し発せられる精密間隔のパルス列を用いることで,大きな物体でも精度を落とすことなく測定できる。
この方法は,非常に小さな物体から,大きな段差や長辺と短辺の比が大きな物体の高速3次元形状計測,単発現象の瞬時イメージングなど,多様な応用が期待されるという。