産総研,フレキシブル配線板で曲がるラジオ試作

産業技術総合研究所(産総研)は,印刷と低温プラズマ焼結によって形成された銅の回路配線を用いて作製されたフレキシブルなラジオを,ツバの内部に組み込んだ野球帽を試作した(ニュースリリース)。

低温プラズマ焼結法(CPS法)は,瞬間的な高温を利用するのではなく,熱平衡状態下で酸化銅が銅と酸素に分離するような極低酸素状態にして純銅を作りだし,大気圧プラズマの作用によりそれらの銅粒子を焼結するため,180℃以下の一定の温度で銅粒子を焼結できる。そのため,インクに還元剤・酸化防止剤を添加する必要がない。

これまでに,インクジェット印刷用の銅ナノ粒子インクであれば,CPS法で焼結できることは確認していたが,今回,銅以外の有機成分が多く混在する量産印刷用のスクリーン印刷用銅ペーストでもCPS法によって焼結できるように,プラズマ生成用の電極や電源などを改良した。

また,今まで使用していたポリイミドフィルムに代わり,耐熱性に劣るもののより安価なポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムでも印刷・焼結できるようになった。これによりPENなどのフィルム基板上にスクリーン印刷法により銅インクで回路パターンを形成し,CPS法で焼結するだけのわずか2ステップで,フレキシブル配線板を作ることができる。

今回改良したCPS法により作製したフレキシブル配線板に,表面実装用部品を実装して曲げられるラジオを製作し,野球帽のツバ内部に組み込んで,フレキシブルラジオ内蔵型野球帽を試作した。ラジオ本体を45mm角以内になるよう小型化し,厚さを1.8mm以下に抑えることで,野球帽のツバ内部へ組み込むことができた。

ラジオのアンテナはツバの芯材を包む布地に縫い込んであり,ラジオ放送を安定して受信できる。着用者の好みによって帽子のツバを曲げても受信には支障がなく,軽量のため重さに対する違和感もない。帽子をかぶったまま電源のオン・オフやボリューム調整,選局が可能になっている。

帽子にフレキシブルラジオを組み込むことで,実況中継を聴きながらスポーツ観戦をしたり,ハイキングやジョギング,農作業時などにラジオ放送を聞けたりなどできるウエラブルデバイスとなった。また,イベントの興行主やラジオ局などが配布するキャンペーングッズとしても提案できる。

今後はCPS法を高速化して,銅インクの印刷と焼成だけによるフレキシブル配線板の製造プロセスの生産性を従来のリソグラフィー技術による製造プロセスと同等にし,3年後には量産化に目途を付ける予定。また,印刷でのフレキシブル配線板の量産技術を確立させて多品種化を容易にし,小ロットから大ロットまで単価に差のない製造技術を提供するとしてる。

その他関連ニュース

  • ODG,人間拡張と光技術についての研究会を開催 2024年08月31日
  • 横国大,AIでストレッチャブルデバイスの動作認識 2024年08月08日
  • 【解説】伸縮可能な太陽電池が衣服を電源化する? 2024年07月01日
  • 東工大,ネットのように伸びる超薄型生体電極を開発 2024年06月24日
  • 理研ら,全塗布で3層構造の有機光電子デバイス集積 2024年04月11日
  • ジャパンディスプレイ,有機光検出器で健康を見守り 2024年02月08日
  • 理研ら,耐水性を備えた超薄型有機太陽電池を開発 2024年02月05日
  • 中大ら,薄くて柔らかいシート型光センサを開発 2024年01月23日