近畿大学の研究グループは,初期宇宙の成り立ちに係わるゲージ理論を解明するため,それをモデル化したゲージヒッグス模型を模擬実験(量子シミュレーション)する方法を世界で初めて提案した(ニュースリリース)。
宇宙の創生から初期にかけて起きた現象を模擬実験で再現し,直接観測できれば,宇宙の成り立ちを解明するうえで大きな成果となる。研究では,初期宇宙の成り立ちに係わるゲージ理論の解明をめざし,量子物理学の分野で話題の量子シミュレーションによる新たな実験方法を提案している。
具体的には,温度による揺らぎを避けるため極低温下においた原子気体を,レーザー光で作られたジャングルジム状の入れ物に捕獲し,入れ物の構造や原子同士が及ぼし合う力を制御する。そうすることによって,ゲージ理論に現れる物理モデル「ゲージヒッグス模型」を実際に作り出し,量子シミュレーションする方法を提案している。
現実の実験系は非相対論的なので,原子系との対応で得られたゲージヒッグス模型は,初期宇宙の模型が持っているローレンツ対称性を持たないが,得られた模型の相図をモンテカルロ法より計算すると,ヒッグス相と閉じ込め相と呼ばれる相が安定となるパラメータ領域が存在することが明らかになった。
よって,原子系の適切に制御して,興味あるパラメータ領域を実現できれば,ゲージヒッグス模型の相転移や,クォークの閉じ込めなどを研究できる量子シミュレーションが可能であることが結論される。また,論文中では,原子系の実時間発展を計算することにより,ゲージ理論で興味が持たれており,かつ,実験で観測が期待される電気力線の動力学についても議論している。
量子シミュレーションの研究は現代の量子物理学におけるホットな話題だが,ゲージ理論の量子シミュレーターの実現に関しては,その基礎物理学的意義から特に興味が持たれている。最近の実験ではイオンの集団を用いて,格子ゲージ理論の1次元模型の研究がなされたが,イオン系では小さなサイズのモデルしかつくることができない。
一方,この研究が提示した冷却原子系では,系のサイズが大きなモデルを検証することができるため,より高機能のシミュレーターが実現できる。この研究をきっかけに,冷却原子系でさらに容易に実現できる実験方法が研究されることが望まれるとしている。