大阪大学の研究グループは,コロイドガラスと呼ばれる材料に対して周波数を変えながら振動を与えると,特定の周波数において結晶化が急速に進展する現象を発見した(ニュースリリース)。
原子や分子が不規則に配置したガラスは,加熱によって原子や分子が規則的な配列へと結晶化する。結晶化を利用するとナノ結晶材料のように高い強度を有する材料を作成することができる。固体を加熱すると固体中にはさまざまな周波数の原子振動・分子振動が励起され,これらの振動によって結晶化が引き起こされる。
一般に固体を振動させると,同じように振動させても特定の周波数で振動振幅が大きくなる。この周波数は固体の形状・大きさに依存する。ガラスは一見不規則な原子・分子配置をしているが,研究グループはガラス内には原子・分子の充填率にばらつきがあり,疎・密な領域の大きさによってそれぞれの領域が特定の周波数で強く振動しており,その周波数で振動させれば加熱することなく結晶化を引き起こすことができるのではないかと考え,コロイドガラスを使って検証実験を行なった。
コロイドガラスとは,水溶液中において1㎛程度の大きさの微粒子が集まってできた集合体で,微粒子はランダムに配置している。その粒子配置はガラス内部の原子配置と似ている。コロイドガラスの特徴は,ガラスと同じランダム構造を有していながら,全ての現象がゆっくりと生じる点にある。つまり,コロイドガラスでは,原子・分子振動に相当する微粒子振動の周波数が低いため,既存の装置を使ってアモルファスの結晶化を検証することが可能になる。
この特徴を利用して実験を行なったところ,今回のサンプルにおいては70Hz付近の振動が結晶化を急速に進展させることが発見された。これまでにも振動を与えてコロイドガラスを結晶化させる研究は行なわれているが,今回の研究ではより細かく周波数を変えながら実験を行なったことで,上述の新しい現象が観測された。この現象は,過去に提案されている結晶化理論では説明することはできず,メカニズムの解明は今後の研究課題となる。
結晶粒の大きさは強度などの機械的性質に大きく影響を与えるので,その制御は実用的に重要。今回の成果は,音を使って結晶化を引き起こす手法の実現可能性を示すものであり,熱処理にかわる新しい超高強度材料作成手法につながることが期待される。
また,熱処理で結晶化を引き起こす場合は,対象となる材料の広い領域が加熱されてしまうため,特定の領域だけを結晶化することが容易ではない。ところが,研究の知見をもとに振動を利用した結晶化技術が確立されれば,材料の一部分だけに超音波を照射し,微小な領域を選択的に結晶化させることが可能になる。
また,超音波を材料内で収束させることによって,材料内部の焦点付近だけを結晶化させることも可能になる。最近では異なる材料を規則的に配列させ,熱や音の伝ぱを制御して効率的にエネルギーを利用しようとするフォノニック結晶の研究が進んで知るが,局所的に結晶化を引き起こすことができるようになれば,ガラスと結晶で構成される新しいフォノニック結晶の開発にもつながると期待されるという。