名古屋大学は,名古屋陽子線治療センター,早稲田大学と共同で,粒子線がん治療に用いる陽子線の飛跡を,陽子線が水中を通り過ぎるときに瞬時に発生する放射線の計測によって“リアルタイム見える化”する方法を考案し,その実証に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
粒子線がん治療において,治療ビームの体内飛跡や到達位置を非侵襲的にその場で正確に観測,つまり、“リアルタイム見える化”できれば,治療計画通りに照射が行なわれたかどうかを治療中に確認できる可能性がでてくる。そのため,治療ビームを“リアルタイム見える化”する手法の開発研究が世界各国で精力的に進められている。
物質に入射した粒子線の飛跡をモニタリングする方法には,飛跡に沿って発生する陽電子の分布を撮像する方法がある。しかし,粒子線が物質内を通り過ぎてから陽電子が発生するまでには時間がかかる。この問題を回避しリアルタイムでの“見える化”を実現するために,粒子線が標的内を通り過ぎるときに発生する電子から放出される放射線に着目した。
これは電子制動放射線と呼ばれ,エネルギーが低いため計測が容易であることに加え,瞬時にたくさん発生するため,粒子線がん治療ビームの“リアルタイム見える化”への応用が期待される。
研究グループはこの放射線の発生メカニズムについて研究し,実際の陽子線がん治療装置を用いて,“見える化”の実証に世界で初めて成功した。さらに,がん治療に用いられているビーム強度に対しても,この手法が適用可能であることを示した。
この手法は,医療現場の診断で用いられている放射線イメージング装置(ガンマカメラ)を用いて実施できる。測定効率および位置分解能の高い既存装置の利用可能性を検討することで,粒子線がん治療の現場への広範な普及が期待できるとしている。