東大,格子振動による熱流が磁場で曲がることを発見

東京大学の研究グループは,絶縁体ペロブスカイト型銅酸化物Ba3CuSb2O9で,熱流が磁場によって曲げられる「熱ホール効果」が起きていることを発見した。そして,熱ホール効果が原子の格子振動(フォノン)によるものであること,また広い温度範囲の観測により熱ホール効果の温度依存性を明らかにした(ニュースリリース)。

磁場の大きさを計測するホールセンサーは,金属が示す「ホール効果」を利用している。ホール効果は磁場の大きさに比例した電圧が電流の向きと磁場の向きの両方に直行する方向に現れる現象。磁場の中を移動する電子にローレンツ力が働くことが起源のため,電気の流れない絶縁体では観測されない。しかし絶縁体中でもホール効果が観測される場合があることがわかり,その解明に注目が集まっている。

絶縁体中では電気は流れないが,絶縁体の片側を温めると冷たい方に向かって熱が流れる(熱流)。金属中のホール効果によって電圧が現れたのと同様に,この熱流が磁場によって曲げられると熱流と磁場の向きの両方に垂直な向きに温度差が現れる。この現象は熱ホール効果と呼ばれる。絶縁体では,熱の流れは主に物質を構成する原子のフォノンによって伝わるが,フォノンは電気的に中性なので磁場の影響を受けて曲がることは通常ありえない。

ところが先行研究において,絶縁体であるテルビウム化合物で熱ホール効果が観測されたことから,フォノンによる熱ホール効果が存在する可能性が指摘されていた。しかし,このテルビウム化合物の実験では,5K(-268℃)という温度一点における実験結果しか報告されなかったために,その温度依存性の詳細は不明だった。また,テルビウム化合物ではスピンが熱を運んでいる可能性を排除できないため,本当にフォノンによる熱ホール効果が生じているかどうかは不明だった。

研究では,量子スピン液体の候補物質である絶縁体ペロブスカイト型銅酸化物Ba3CuSb2O9における熱ホール効果を調べたところ,絶縁体であるにもかかわらず,2~60 K(-271~-213℃)の広い温度領域で熱ホール伝導率が観測された。熱輸送特性を調べたところ,この物質のスピン励起はこの温度領域ではほとんど観測されなかったことから,主にフォノンが熱を運んでいることがわかった。

この結果から,熱ホール効果はフォノンによるものであることが明らかになった。また,この物質の熱伝導率は,類似の化合物と比べて非常に低くなっていることがわかった。特に,その温度依存性は結晶であるにもかかわらず,ガラス物質で観測されるような温度依存性を示すことから,フォノンによる熱伝導が強く阻害されていることがわかった。類似物質との結晶構造の比較から,ペロブスカイト型銅酸化物Ba3CuSb2O9に特有の結晶構造がフォノンを散乱しており,この散乱がフォノンの熱ホール効果を引き起こしている可能性が示唆された。

この成果では,フォノンによる熱ホール効果の広い温度範囲での観測に初めて成功した。電荷をもたないフォノンの運動が磁場によって曲げられているという現象は不思議であり,今後の研究によりこの機構が解明されれば,熱流の方向を磁場で制御できる可能性を示すものだとしている。

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