高エネルギー加速器研究機構(KEK),東京大学,産業技術総合研究所らの研究グループは,光照射による分極の減少・回復が,微視的な分極反転によって起こることを理論と実験の両面から明らかにした(ニュースリリース)。
研究ではまず,フェムト秒パルス光を強誘電体に照射し,その後の分極の時間変化を第二高調波発生(SHG)を用いて観測した。その結果,例えば,光子エネルギーが3.2eVのパルス光を照射した場合,強誘電分極が1ピコ秒以内という極めて短時間で減少し,その後,約10ピコ秒という短時間で回復することを確かめた。
次に,そのような分極変化がどのような機構によって引き起こされるかを解明するために,計算によって光が照射される前の電子状態(基底状態)と光が照射されたあとの電子状態(励起状態)を調べた。
その結果,光照射によって,まずクロコン酸分子中のπ電子が励起され,次にそのπ電子励起が引き金となってプロトンが移動,それが次々と連鎖することで1光子あたり10分子以上にわたる領域でプロトンが直線的に連なって移動することが分かった。この連なった移動の方向は元々の強誘電分極の方向と逆となるので,全体としては分極値が減ることになり,上記の実験結果を説明できる。
この分極反転は,大きなエネルギーを注入して全体を乱雑にする現象と異なり,熱などのエネルギーロスを抑えながら高速に起こすことができる。今回の光照射による分極変化現象は,強誘電体の高速分極制御の可能性を強く示唆するものであり,将来の高速の光スイッチ,光変調素子,光メモリーなどへの応用が期待される。
また,この微視的な分極反転は,水素結合を持つ強誘電体(水素結合型強誘電体)のプロトンの自由度と電子(クロコン酸分子のπ電子)の自由度の間の強い結合に基づくものであり,このようなプロトンと電子の間の強い結合を光励起動力学の観点から明らかにする研究は,これまでほとんど行なわれておらず,そのような学術的意味においても新しい結果であり,今後,研究の展開が期待されるとしている。