神戸大学と名古屋大学の研究グループは,独自に開発した「電子スピン分極イメージング法」を用いて,光合成の水分解反応を行なっている「光化学系II複合体」の反応初期段階で生じる「光電荷分離状態」の立体構造と電子軌道の重なりの性質を解析することに,世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
光合成の水分解反応をな行っているのは,植物の葉緑体にある光化学系II複合体と呼ばれる膜タンパク質複合体。近年,藻類が持つ光化学系IIの立体構造の詳細が示されたが,光入射直後に分子に電荷を生じた状態(電荷分離状態)によるものではなく,光反応の過程で発生する中間生成物(反応中間体)がどのような立体構造を持つのかは不明だった。
研究では,外部磁場存在下で反応中間体の磁気的性質をマイクロ波により検出する時間分解電子スピン共鳴法を用いて初期電荷分離状態を観測し,初期電荷分離状態によるマイクロ波の信号を,1000万分の1秒の精度で検出した。
今回,新たにこのマイクロ波の信号を,外部磁場の空間的方向に分解し画像化する「電子スピン分極イメージング法」を開発し,反応中間体として光照射直後に生成した電荷の立体構造の三次元映像解析を,連続撮影のように1000万分の1秒の精度で行なうことが可能になった。
この研究によって,光合成による水分解のための酸化力を損失することなく,効率的に高い化学エネルギーを生み出す仕組みが解き明かされた。これは太陽光を効率的に高い電気エネルギーや水素などのクリーンエネルギー源に変換できる「人工光合成系」の設計指針を示したものであり,この原理の応用によってエネルギー問題,環境問題,食糧問題の解決が期待されるとしている。