東京大学は,固体表面に形成した単分子層内部の個々の水分子を可視化する新しい手法を開発した(ニュースリリース)。
金属表面上に吸着した水分子は,分子同士が水素結合することで多彩なネットワーク構造を作ることが知られている。金属の種類や温度によって,水のネットワークは1次元,2次元,あるいは3次元に成長し,その物性も大きく変化する。
たとえば湿電池(自動車のバッテリーなど)において,金属(電極)と水(溶液)の境界面の構造を解明することは高性能な電池の開発につながる。また,固体表面上において水分子ネットワークがどのように成長するか,つまり,表面が濡れる過程を,原子レベルで理解することができれば,水に濡れやすい(あるいは,濡れにくい)材料の開発に役立る。
これまで,水単分子層のナノスケールでの観察には,走査トンネル顕微鏡(STM)が用いられてきた。STM像は分子の電子状態を反映したものであり,原子の大きさよりも広がった「電子雲」を画像化するため,薄膜内部の個々の水分子を可視化することができず,別の実験手法や理論計算によるサポートが必要だった。
研究グループは,水単分子層の構造をAFMによって単分子レベルで解明することを試みた。AFMは探針と表面上の原子との間に働く微小な力を検出する手法。STMとはイメージングのメカニズムが異なるため,異なる見え方の像が得られると予想し,観察対象として,銅表面上に成長した「水のチェーン」を選択した。
このチェーンは,5個の水分子が水素結合によって5角形を形成し(5員環),それが構成単位となって1次元的に配列した構造。この構造モデルはSTM像だけでは知ることができない。しかし,AFMによって観察すると,1つ1つの水分子が鮮明に可視化され,5員環の構造を実証することができた。
さらに,AFMを用いることによって,今まで分からなかったチェーンの末端の構造を初めて明らかにした。チェーン末端のように極めて局所的な水分子の配列を明らかにすることは,AFM観察が水分子ネットワークの局所構造を調べるための最も有力な手法であることを示しているという。
このイメージング手法を応用することで,水分子ネットワークだけでなく,弱い分子間相互作用で結びついたさまざまな分子集合体の構造を原子レベルで解明することができると期待され,ナノサイエンスの発展への大きな貢献が期待されるとしている。