大阪市立大学は,太陽光を利用し二酸化炭素を燃料源の一種であるギ酸に変換することのできる触媒分子群(太陽光-ギ酸合成システム)を,ナノメートルサイズの無数の孔をもつ板状のガラスの中に配置する事で,従来型の溶液に分散した触媒システムと比べて約15倍の効率でギ酸合成反応を進めることに成功した(ニュースリリース)。
現在,人工光合成技術の一つとして,太陽電池などに使われる人工色素と,二酸化炭素をギ酸(燃料源,水素エネルギー貯蔵媒体)に変換する反応を促進させる触媒であるギ酸脱水素酵素を組み合わせることで,太陽光エネルギーを使って二酸化炭素をギ酸に変換するシステム(太陽光-ギ酸合成システム)が提案されている。
この太陽光-ギ酸合成システムは,触媒分子を溶媒に均一に分散させて反応させることでシステムの性能を試験してきたが,産生されたギ酸も溶媒に溶けるため,触媒分子とギ酸が混ざった溶液の中からギ酸のみを回収することが必要だった。これは非常に困難でコストが掛かるため,できるだけ手間の掛からない技術開発が求められていた。
太陽光-ギ酸合成システムを何かの基板に固定することができれば,基板表面上で二酸化炭素がギ酸に変換され,ギ酸のみの溶液を回収することができるようになる。研究グループは,太陽光-ギ酸合成システムを固定する基板として,光をよく透過し,かつ,ナノメートルサイズの孔を無数に持つガラス板(多孔質ガラス板)に注目した。
多孔質ガラス板の厚さは1mmあり,孔は表から裏まで貫通している。この孔の中に,太陽光-ギ酸合成システムを高密度に固定することで,溶液中に均一に分散させた触媒システムの約15倍の性能を持つ,太陽光で二酸化炭素をギ酸に変換するガラス板の開発に成功した。
現在,ギ酸を気体燃料としての水素分子や,液体燃料としてのメタノールに変換するための触媒開発が進められている。もし,そのような触媒を今回開発した「太陽光-ギ酸合成システムを導入した多孔質ガラス板」の孔の中に固定できれば,太陽光でメタノールや水素を合成するガラス板が作れるとしている。
研究グループは,多孔質ガラス板の利用により変換効率が約15倍に増大した詳細なメカニズムを解明することで,より高い変換効率を持つ人工光合成技術の創生に取り組んで行く。また,現時点ではギ酸の合成に必要な電子を電子供与体(試薬)から取り出しているため,コストがかかっている。水から電子を抽出できるシステムを新たに構築することで,天然の光合成反応により近づけることを目指す。