理化学研究所(理研)は,奇数質量数のパラジウム同位体に対し,従来法に比べて約10,000倍のイオン収量が得られる選択的励起イオン化法を開発した(ニュースリリース)。
原子力発電所の使用済み核燃料を再処理した際に発生する高レベル放射性廃棄物には,核分裂生成物としてパラジウム(Pd,原子番号46)やルテニウム(Ru,原子番号44)などの有用元素が含まれている。Pdにおいては,半減期の長い放射性同位体(長寿命核分裂生成物,LLFP)の107Pdと6種類の安定同位体(102Pd,104Pd,105Pd,106Pd,108Pd,110Pd)が存在する。
Pdを資源化するために107Pdを除去する必要があるが,同位体は化学的性質が似ているため,化学的手法で特定の同位体だけを分離抽出することはできない。また,「レーザー同位体分離法」は特定の同位体だけをイオン化して分離する方法だが,パラジウムのように同位体シフトの小さな元素には適用できまない。
この問題を解決するため1980年「レーザー偶奇分離法」が開発され,奇数質量数のPd同位体(105Pd,107Pd)を選択的に励起イオン化することが可能になった。しかしパラジウムを資源として十分な量を分離回収するためには,励起イオン化効率が低くイオン収量が少ないという課題があった。
今回,研究チームは,自動イオン化準位の利用および励起原子のイオンコア統一という二つの分光学的考察に基づいた新しい励起スキームを採用することで,レーザー偶奇分離法を改良した。その結果,奇数質量数の105Pdのイオン収量は従来の約10,000倍に増大した。
この方法は本来の目標物質である107Pdにも原理的には適用できる。また,この手法で分離される105Pdと107Pdは理研 仁科加速器研究センターによる非放射化実験の試料として活用される予定。さらに,ジルコニウム(Zr,原子番号40)やセレン(Se,原子番号34)など、他のLLFPへの応用もできる。
この成果により今後,パラジウムにおけるレーザー偶奇分離技術の実用化に向けた開発が “高レベル放射性廃棄物の資源化” という大きな目標への第一歩になると期待できるとしている。