富士通研究所は,手のひら静脈を使ったスライド式の静脈認証技術を世界で初めて開発した(ニュースリリース)。
手のひら静脈認証技術では,生体を透過しやすく安全な近赤外帯域の波長の照明を用いて撮像し,体内にある静脈のパターンを読み取って認証に利用している。照明部の幅は光学ユニットの中で最も広く,小型化における課題だった。
さらに,撮像部については,小型化すると手のひらの静脈パターンを読み取れる範囲が狭くなるため,登録時と照合時で読み取る範囲が大きくずれてしまう場合などで認証されにくくなるといった難しさがあり,光学ユニットの小型化と確実な認証を両立する技術の実現が課題となっていた。
今回,光の回折現象を応用した拡散機能と集光機能を兼ね備えた複合光学素子を新たに開発した。LED光源からの光を回折させて斜め上空へ照射し,照明部よりも広く四角い形状の領域を均一の明るさで照明することができる。撮像する四角い範囲を狙って光を均一の明るさで照射することでLED個数を減らし,さらに照明部と撮像部を一列に配置した構造とすることで,幅の狭いモバイル端末のフレーム部に収まるサイズを実現した。
利用者がモバイル端末のタッチパネルを指でタッチし,表示されるガイドに沿って手をスライドしている間に光学ユニット上を通過する手のひらが連続して撮像され,同時にタッチパネルから得られる座標情報も記録される。
小型化によって一度に読み取れる範囲が狭くなっても,手をスライドさせることで静脈パターンを分割して読み取って手のひら全体の静脈パターンを照合に用いることができ,さらにガイドにより読み取る範囲の再現性が高まった。
また,座標情報を利用して照合に適した画像選択を行なうなど,分割して読み取った静脈パターンを照合するアルゴリズムを新たに開発した(他人受入率 0.001%,本人拒否率 0.01%(リトライ1回))。
今回開発した技術を用いることで,手のひら静脈認証の光学ユニットの幅を8mmまでに抑えることができ,狭額縁化が進むタブレットなどの小型モバイル端末のフレーム部へ搭載可能なサイズを実現したとする。また,スライド式の入力操作と照合アルゴリズムにより,小型化を実現しながらこれまで同様の認証精度で認証できるという。
同社では,継続して光学ユニットと照合アルゴリズムの開発を進め,スライド式静脈認証技術の2017年度中の実用化を目指す。また,開発した複合光学素子などの新しい小型化技術により,様々な利用シーンに手のひら静脈認証の適用範囲が広がっていくことが期待されるとしている。