理化学研究所(理研),高輝度光科学研究センター,京都大学らの共同研究グループは,放射光を利用して数マイクロメートル程度の微小タンパク質結晶から効率よく回折データを得る「Serial Synchrotron Rotation Crystallography(SS-ROX)法」の測定技術を確立した(ニュースリリース)。
タンパク質X線結晶構造解析法は高い分解能で生体分子の構造を決める最も一般的な方法だが,まだ解析されていない重要なタンパク質の多くは,現在,サイズが大きい良質な結晶が得にくい状況にある。
微小結晶から高精度な回折データを得て構造を決定するには,SPring-8の高輝度マイクロビームを用いた測定が有効だが,この測定では放射線損傷により結晶の品質が低下するため,一つの結晶から構造決定に必要な枚数の回折像を得るのは難しい。そのため,多数の結晶から得た部分的な回折像を合わせて完全性を高める必要がある。
しかし,多数の回折像を得るには大量の試料が必要なため,少ない試料で微小タンパク質の構造を決定できる効率的な測定方法の開発が求められていた。
そこで,共同研究グループはSS-ROX法に着目した。SS-ROX法では,微小結晶の懸濁液を凍結したものを試料とし,試料位置をずらしながら回転させることで網羅的にX線を照射し,試料中に含まれる微小結晶を効率よく測定できる。しかし新しい手法であるため,測定技術が確立していなかった。
共同研究グループはSPring-8 BL41XUでSS-ROX法により,ルシフェリン再生酵素(LRE)の水銀誘導体の微小結晶の構造解析を行なった。その結果,測定中に試料を回転させない場合は17,800枚必要だった回折像を400~600枚まで減らして構造を決定できた。また,放射線損傷の評価やS/N比に関する検討などを行ない,SS-ROX法の測定技術を確立した。
この技術は,世界中の高輝度放射光施設に設置されたマイクロビームが利用可能なタンパク質結晶構造解析用ビームラインであれば,大きく設定を変更することなく使用できる。創薬ターゲットとなる微小タンパク質結晶を用いた効率的なドラッグスクリーニングなどへの貢献が期待できるとしている。