千葉大学とKAISTは,テラヘルツ帯における高強度光渦を世界で初めて発生した。また,発生した光渦を利用すれば,テラヘルツ帯におけるグラフェンの吸収応答をマイクロメートルスケールで観測できることも実証した(ニュースリリース)。
生体組織に非侵襲でかつ様々な物質を透過するテラヘルツ帯の電磁波(テラヘルツ波)を用いたイメージング技術(可視化技術)はセキュリティー検査などへ積極的に応用されている。
また,テラヘルツ波の周波数は比較的大きな分子群などの固有振動に相当するので,生体分子や高分子結晶の構造解析などの可視化も期待されている。しかしながら,テラヘルツ波の波長が長いため,高い空間分解能で可視化することは難しかった。
今回,光渦を用いれば超解像(回折限界より高い空間分解能を有する)イメージングがテラヘルツ帯においても実現できることを示したもの。テラヘルツ波を光渦に変換するための螺旋位相板と呼ばれる素子を用いて,高強度テラヘルツ光渦の発生に世界で初めて成功した。
テラヘルツ周波数で屈折率分散が非常に小さな(屈折率 n=1.52@0.1-1.6THz)樹脂材料(Tsurupica)を用いて螺旋位相板を作成することを着想し,広帯域で高強度なテラヘルツ波からも光渦が発生できることを実証した。
実験に用いたテラヘルツ波は,フェムト秒レーザー励起のパルス面傾斜法を用いて発生させている。帯域が0.6THzもあるにもかかわらず,出力2.3mWの高強度なテラヘルツ光渦(中心周波数0.6THz,光渦次数ℓ=1.15)が発生できた。これは世界初の成果。
さらに,テラヘルツ光渦とテラヘルツガウスビームをグラフェン(テラヘルツ帯で非線形応答を示す2次元材料)上に空間的に重ねて照射したところ,テラヘルツ光渦の円環状の強度分布を反映してテラヘルツガウスビームの形状がリング状に変化した。すなわち,グラフェンの吸収を飽和させることで光渦の円環の孔の部分だけで吸収が計測できたことを示すもので,超解像テラヘルツイメージングの原理実証だとしている。
今回,高強度テラヘルツ光渦の発生とグラフェンの吸収応答を回折限界より小さな領域で観測できた。この技術はグラフェンに限らず様々な2次元材料に適用できる。したがって,トポロジカル絶縁体をはじめとする材料のテラヘルツ帯光物性研究に大きなインパクトを与える。また,半導体などの電子励起状態を高い空間分解能で観測できる可能性もあるとしている。