東京工業大学と東京大学,九州工業大学,明治大学,産業技術総合研究所,東芝,三菱電機らは,シリコンによる電力制御用の絶縁ゲート形バイポーラトランジスタ(IGBT)をスケーリング(微細化)することで,コレクタ-エミッタ間飽和電圧(Vce(sat))を従来の約70%に,オン抵抗を約50%に低減することに成功した(ニュースリリース)。
省エネルギー化には電力制御システムの高効率化が重要となる。そのシステムは大規模では発電,送電,また鉄道や自動車から,小さいものでは家電製品やモバイル機器に組み込まれた電源回路に至るが,そこにはインバータに代表される電力制御装置が必須で,それを構成するパワー半導体トランジスタがその性能と製造コストに大きな影響を与える。
パワートランジスタの市場は価格の面からSi-IGBTが主流で,今後10年以上にわたってこれは揺るがないと予想されている。Si-IGBTは種々の技術革新により高性能化,小型化と低コスト化を進めてきたが,昨今はその進化が飽和する傾向となり,デバイス技術のコモディティ化も予想され,次世代に向けた新たな技術革新が求められている。
今回,スケーリングには素子寸法の「3次元的微細化」という新スキームを用いた。性能向上はオン動作時の単位面積あたりの電流密度を高めることで実現した。
今回の成果によって,スケーリングによる性能の向上が確認されたことは,日本がこれからもSi-IGBTという主流市場で価格競争でなく性能による差別化で勝負できるという意味で重要だとしている。
また今回の実証は1/3のスケーリングだが,さらにそれ以上の可能性も秘めているという。Si-IGBTのエネルギー損失を顕著に低減するこの技術が産業レベルで実用化されれば,電力制御システムの高効率化に直接貢献できる。またドライブ回側での技術開発により低電圧駆動が実用化されれば,システムとしてさらに高効率化,高機能化と低コスト化が実現し,これが世界に広く普及すれば将来の省エネルギー社会の実現への貢献が期待できるとしている。