高輝度光科学研究センター(JASRI)は,米ヒューストン大学,ミシガン大学,オークリッジ国立研究所と共同で,大型放射光施設SPring-8の高輝度・高エネルギー放射光X線を用いて,カーボンナノチューブ(CNT)中の異常な水の状態を解明した(ニュースリリース)。
CNTは,飲料水の入手が困難な地域で利用される携帯型浄水器の高性能吸着剤として注目されている。CNT吸着剤には再利用可能という優れた特徴がある一方で,CNT中の水にはいくつかの不思議な現象が知られている。
例えば,水はCNTの中に自発的に流れ込んだり,水はCNT中ではポアズイユの法則から導かれる流速より60倍も速く流れたりする。この不思議な現象は,従来の水の構造モデルに基づく知識では理解できない。
研究グループは,この不思議な水の状態を解明するために,SPring-8の高輝度・高エネルギー放射光X線を利用した「コンプトン散乱」と呼ばれる実験手法を用いて,CNT中の水分子の電子の速度分布を精密に測定した。
水分子は2個の水素原子と1個の酸素原子からできている。今回の実験結果を以前に実施した中性子コンプトン散乱実験の結果と比較することにより,水素原子を構成する電子と陽子の両方が同時に異常な振る舞いをすることが明らかになった。
これは,CNT中の水では,水素原子を構成する電子と陽子がそれぞれ独立して水全体に広がった波のような状態になっていることを示している。
この研究の成果は,高性能携帯型浄水器の開発に必要なCNT材料の開発に役立つだけでなく,ナノ領域に閉じ込められた水の挙動が重要になる燃料電池次世代発電システムや医療分野の発展にも結び付くものと期待されるとしている。