名大ら,負の膨張率を利用してグラフェン化に成功

名古屋大学と中国内モンゴル民族大学の研究グループは,グラフェンの負の熱膨張率を利用して,炭素原子バッファー層を900°Cから液体窒素温度(-196°C)に急冷することによるグラフェン化に成功した(ニュースリリース)。

原子一層分の炭素材料であるグラフェンは,究極的な高キャリア移動度を持つことから,次世代半導体材料として期待され,その発見者には2010年ノーベル物理学賞が授与された。

炭化珪素(SiC)を高温で加熱すると,熱分解によりSi原子が昇華し,表面にグラフェンとほぼ同じ構造を持つバッファー層と呼ばれる炭素原子層が形成される。このバッファー層中の炭素原子は基板と結合を残している。

このバッファー層上にグラフェンを作製すると,グラフェン中の電子がバッファー層中の原子の熱振動により散乱され,温度が高いほど移動度が低下することが問題だった。

ところで,グラフェンは負の熱膨張係数を持つことが知られている。すなわち,加熱すると収縮し,冷却すると膨張する。一方で,典型的な基板材料の一つであるSiCは,他のほとんどの物質と同じように正の熱膨張係数を持つ。

このことは,SiC上に形成したグラフェンとほとんど同じ構造を持つバッファー層を冷却すると,バッファー層は膨張し,SiC基板は収縮することを示唆している。そのため,この変化を急激に起こす,すなわち急冷処理を施すことで,バッファー層とSiCの結合が物理的に切断され,バッファー層がグラフェン化すると期待されるという。

結合が切断されれば,グラフェンは基板上からfreestandした状態となり,基板原子の熱振動が抑制され,上述した温度上昇に伴う移動度低下が抑制されることも期待される。

研究グループは実際,900°Cに加熱したバッファー層試料を,-196°Cの液体窒素中に投入して急冷することで,バッファー層がグラフェン化することを見出した。得られたグラフェンは,5x5mm2の基板全体にわたって非常に均一な単層グラフェンで,基板による歪みからも解放されており,正孔伝導を示すことがわかった。

さらに重要なことに,グラフェンの大きな問題であった,熱振動による電子の散乱が劇的に低減されていることも明らかになった。従来,類似した効果を得るためには,爆発性のある高純度水素ガス中で600°C以上に加熱する必要があり,非常に危険を伴うものだった。この技術を用いることで,そのような危険を生じることなく,温度上昇に伴う移動度の低下を抑制することができる。

この技術は,名古屋大学により特許を出願済み。さらにこの手法では,絶縁性の基板であるSiCウェハ全面に,freestandしたグラフェンを作製することができる。従って,グラフェンのエレクトロニクス応用には非常に大きな貢献を果たすことが期待されるとしている。

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