阪大ら,膜タンパク質の効率的な解析手法を開発

著者: sugi

大阪大学,東京大学,高輝度光科学研究センター,理化学研究所等による合同研究チームは,X線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAを利用して,膜タンパク質の立体構造を迅速に解明する,世界初の技術の開発に成功した(ニュースリリース)。

膜タンパク質とは,生体膜に組み込まれたタンパク質分子。膜タンパク質は生体膜に存在することで,外界からの物質の取り込み,排出,情報伝達,エネルギー合成といった重要な機能を担っている。また,近年は創薬ターゲットとして注目されており,膜タンパク質に結合して機能を阻害または促進する化合物が薬剤候補として盛んに探索されている。

この膜タンパク質のはたらきを分子レベルで理解するには立体構造の解明が必要となる。しかし,膜タンパク質は脂質(油)となじみやすく水に溶けにくいため,生体膜の外に存在する水溶性タンパク質と比べ,立体構造の決定に時間・費用・労力がかかるなど,多くの課題が残されていた。

特に,従来の技術と異なり,タンパク質の構造変化を常温で放射線損傷なく微結晶を用いて観察可能な革新技術,連続フェムト秒結晶構造解析と融合した膜タンパク質の構造決定法の確立が待望されていた。

研究グループは,異常散乱効果の大きい重原子であるヨウ素を含む界面活性剤を新たに合成し,これを膜タンパク質バクテリオロドプシンの微結晶と混ぜるだけで,効率よく膜タンパク質の重原子標識ができることを見出した。

この微結晶の連続フェムト秒構造解析を試みた結果,異常散乱法(SAD),重原子同型置換法(SIR)、異常散乱を用いた重原子同型置換法(SIRAS)の各手法で膜タンパク質の立体構造が決定できることを,世界で初めて実証した。

研究ではさらに,創薬ターゲットとして重要な膜タンパク質であるGタンパク質共役受容体(GPCR)にも重原子界面活性剤が利用できることを明らかにし,今回開発した新しい構造決定法が今後,多様な膜タンパク質に応用できることを示した。

開発した新しい膜タンパク質構造決定法により,水溶性タンパク質に比べて大きく遅れていた膜タンパク質の構造解明が加速し,生命活動の仕組みの理解が分子レベルから進むことが期待されるという。

また,がん・生活習慣病・神経変性疾患・アレルギー等の多様な疾病に関与し,創薬ターゲットとしても重要な膜タンパク質の構造を基礎にした新薬の設計・開発など,医療分野への応用も期待されるとしている。

キーワード:

関連記事

  • 慈恵医大ら,120種のタンパク質を可視化し統合解析

    東京慈恵会医科大学らの研究グループは,1枚の組織切片上から120種類以上のタンパク質を高解像度に可視化し,空間的に統合解析できる世界初の技術「PathoPlex」を開発した(ニュースリリース)。 マルチプレックスイメージ…

    2025.07.29
  • 阪大ら,青色光受容タンパク質の光検知後の構造解明

    台湾大学,独フィリップ大学マールブルグ,大阪大学,台湾中央研究院・生物化學研究所,理化学研究所,高輝度光科学研究センター,東北大学,京都大学,兵庫県立大学,名古屋大学,仏グルノーブル・アルプ大学,欧州シンクロトロン放射光…

    2025.05.21
  • 岡山大ら,光合成タンパク質で高温に強い植物を創出

    岡山大学,大阪大学,理化学研究所,京都産業大学は,光合成の光エネルギー転換反応が起こる「チラコイド膜」を維持するVIPP1と呼ばれるタンパク質のはたらきを明らかにし,このタンパク質を利用して高温に強い植物を作り出すことに…

    2025.04.16
  • 愛媛大,室温で外界分子に応答し光る人工細胞を創製

    愛媛大学らは,発現阻害物質の影響を受けることなく,外界標的分子の濃度依存的に強度を変えて光る人工細胞の創製に成功した(ニュースリリース)。 無細胞系(無細胞タンパク質発現システム)は,生細胞の制約を受けずに添加遺伝子から…

    2025.04.04
  • 東京科学大,タンパク質の協働を制御して分子設計

    東京科学大学と東京大学は,蛍光分子等のスイッチ分子の結合をトリガーとして,タンパク質の動きを協働的に制御する分子設計技術「分子ドミノ」を開発した(ニュースリリース)。 タンパク質デザインが2024年のノーベル化学賞を受賞…

    2025.03.03
  • 東北大ら,光に強く安定したタンパク質標識を開発

    東北大学と三重大学は,DNAを活用し,光に強く安定した新しいタンパク質標識「FTOB」を開発した(ニュースリリース)。 ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの神経疾患は,キネシンというタンパク質の異常が原因の一つとされている…

    2025.02.13
  • 理研,SPring-8でタンパク質構造を詳細に可視化

    理化学研究所(理研)は,大型放射光施設「SPring-8」を活用し,タンパク質のX線結晶構造解析において高い解像度と精度を実現する新たなデータ収集・統合方法を開発した(ニュースリリース)。 SPring-8の放射光ビーム…

    2025.01.20
  • 岡山大,テラヘルツ顕微鏡でコロナのタンパク質検出

    岡山大学の研究グループは,テラヘルツ波ケミカル顕微鏡を用いた微量検体中の新型コロナウイルス内に存在するNタンパク質の高感度検出に成功した(ニュースリリース)。 新型コロナウイルスの拡大では,感染者を特定するためにPCR検…

    2025.01.07

新着ニュース

人気記事

新着記事

  • オプトキャリア