理化学研究所(理研),徳島大学らの共同研究グループは,JRABというタンパク質の1分子の構造変化に着目し,細胞集団運動の制御機構を解明した(ニュースリリース)。
複数の細胞からなる細胞集団の運動は,胎生期の組織・器官形成の過程だけでなく,創傷治癒やがん転移などでも広くみられる現象。細胞集団の動きは複雑なことから,これまでは多数の分子が関与すると予想されていた。
しかし,共同研究グループは,これまでの研究により低分子量Gタンパク質Rab13の標的タンパク質として発見されたJRABが細胞集団運動において重要な役割を果していると考え,JRABというたった1分子の構造変化に着目して,細胞集団運動の制御機構を解明しようと試みた。
まず,バイオインフォマティクス(生命情報学)と生化学的実験を組み合わせることで,JRABのRab13との結合による構造変化モデルを示した。またJRABの野生型や構造変異体(open formとclosed form)を発現させた3種類の細胞集団の動きの異なった特徴を,ライブイメージング像の時空間ボリュームレンダリングによる解析で抽出・可視化に成功した。
さらに,オプティカルフロー(画像データから,局所的な移動ベクトル(速度と方向)を推定する計算モデル・方法)と主成分分析を組み合わせ,画像の輝度変化に強い手法を開発し,従来法では困難だった細胞集団の動きの計算と膨大な情報の定量的な解析を実現した。
その結果,構造を自由に変化できる野生型のJRABは,open formやclosed form変異体と比較して最も効率の良い細胞集団の動きを可能にしていることを証明した。また,開発したバイオメカニクス(生体力学)の手法を用いた解析ではclosed form のJRABが細胞集団の先頭の一部で集団を引っ張るのに必要な力を生み出していることが分かった。
今回,生化学,細胞生物学,コンピュータサイエンス,バイオインフォマティクス,バイオメカニクスといった異分野領域の融合研究によって,細胞集団運動という高次細胞機能の制御をタンパク質1分子の構造変化で説明することができた。この研究は今後,発生異常の病態解明やがん転移機構の解明につながるとしている。