岡山大ら,地球下部マントルの流れをSPring-8で解明

岡山大学,愛媛大学,神戸大学,高輝度光科学研究センター,東京工業大学らの共同グループは,高圧実験技術の改良により,ブリッジマナイト多結晶体の大歪せん断変形実験に成功。SPring-8の高輝度単色X線を利用して,回収試料の変形したブリッジマナイト多結晶体の結晶選択配向を決定し,じこれをもとに,これまで報告されている地震波速度異方性から,沈み込んでいるスラブの流れの方向を明らかにした(ニュースリリース)。

地球マントルの物質循環(プレートの沈み込み,プルームの上昇,対流様式等)を理解する上で,マントルのレオロジー(流動特性)を知ることは必要不可欠。特に,深さ660km以深の下部マントルはマントル全体の約70体積%を占め,また,下部マントルのおよそ77体積%はブリッジマナイトという鉱物が占めると考えられていることから,ブリッジマナイトの流動特性の解明は下部マントルの流動特性を理解するために必須となる。

地球物理学的観測によって,スラブ周辺の下部マントルにおいて,S波の地震波速度の異方性が観測されている。この異方性の要因として,マントル鉱物,この場合はブリッジマナイトのせん断変形による結晶選択配向が考えられる。しかしながら,これまで実験的困難さから,下部マントル条件下でせん断変形によって引き起こされるブリッジマナイトの結晶選択配向は明らかとなっておらず,地震波速度の異方性の成因は未解決だった。

今回,下部マントル上部の温度圧力条件(25万気圧,1600℃)でせん断変形実験を行なうことによって,世界で初めて変形に伴うブリッジマナイトの結晶選択配向を明らかにし,結晶のa面内をc軸方向に転位が移動するすべり系が主要になっていると推定した。これらの結果とこれまでに報告されているブリッジマナイトの弾性定数と組み合わせることにより,下部マントルでのスラブ近傍で観測されている地震波速度異方性がスラブに沿った変形によって説明できることを明示した。

結晶選択配向は地震波異方性を引き起こす重要な要因のうちの一つ。実験的に各マントル鉱物の変形による結晶選択配向を明らかにすることは,マントルダイナミクスを理解するうえで重要なアプローチの一つ。

この研究成果は,これまで,明らかにされていなかったブリッジマナイトのせん断変形誘起の結晶選択配向を明らかにし,スラブの流動方向を確定しました。さらに,研究での変形実験技術の開発で下部マントル条件での大歪変形実験を可能としたことにより,今後更なる下部マントル鉱物のレオロジー(特に粘性率)に関する重要な知見を提供できるようになるとしている。

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