情報通信研究機構(NICT)は,独自に開発したホログラムプリンタにより作製した特殊な光学スクリーンと,今回新たに開発したホログラム映像を投影する技術を組み合わせることで,透明なスクリーンにホログラム映像が浮かぶプロジェクション型ホログラフィック3D映像技術を開発した(ニュースリリース)。
NICTはこれまで,電子ホログラフィと呼ばれるホログラフィック3Dディスプレーの開発を行なってきた。しかし,実用的な画面面積と視野角を持つホログラフィック3Dディスプレーの実現には,空間光変調器(SLM)の更なる高解像度化が必要だった。
今回,NICTは,SLMの解像度に依存することなく,画面面積と視野角の両方を自在に設計できる,プロジェクション型の新しいホログラフィック3D映像技術を開発した。NICTでは,2014年から,特殊なホログラム印刷技術及びその複製技術によって,様々な応用が可能な光技術の実現を目指したHOPTECH(Holographic Printing Technology)という研究プロジェクトを開始している。
その研究の一環として,コンピューターで設計した光の波面をホログラムとして記録できるホログラムプリンターを開発してきた。ホログラムプリンターは,3Dデータの可視化といった応用や,任意の反射分布特性を持つ光学素子DDHOE(Digitally designed holographic optical element)を作製することができる。
今回開発したプロジェクション型ホログラフィック3D映像技術は,ホログラム映像を拡大投影する技術と,投影されたホログラム映像の光を特定の観測位置に集光する特殊な光学スクリーンをホログラムプリンターで作製することで実現した。ユーザーは,自在に拡大されたホログラム映像を自由な視野角で見ることができる。
これまでにも,レンズや凹面ミラーといった光学素子を用いて,ホログラフィック3Dディスプレーの視野角を拡大する技術は提案されていたが,今回開発した技術は,ホログラムプリンターで作製した薄い光学スクリーン1枚で,従来の光学素子以上の設計自由度を実現することができるという。
さらに,この光学スクリーンはほぼ透明であることから,ディスプレーの使い方に応じて柔軟なシステム設計が可能となり,例えば,3D情報を提示する車載ヘッドアップディスプレーやホログラム映像を提示するスマートグラスの実現,デジタルサイネージのホログラム映像化等への応用が期待できるとしている。
今後は,ディスプレイのフルカラー化を進めるとともに,実用化を目指したシステムの簡素化,複数の観測者に映像を提示できるシステムの検討や観測位置を自由に走査できるシステムの開発などを進める。