物質・材料研究機構(NIMS)はペロブスカイト太陽電池のホール輸送層に用いる新規添加剤を開発し,安定性を大幅に向上させることに成功した(ニュースリリース)。
暗所保存では1000時間を経ても性能の劣化が見られず,連続光照射下においても初期効率の85%まで劣化するのに要する時間は従来の添加剤より6倍長くなり安定性が大幅に改善された。
塗布プロセスで製造可能なペロブスカイト太陽電池は安定性に課題があり,特に酸化チタン/ペロブスカイト/ホール輸送層で構成された順セル構造のペロブスカイト太陽電池は最も高い変換効率を示すが,安定性が非常に低く,光照射のない状態でも劣化が進み,200時間で約3割も変換効率が低下する。
そのため安定性の低さの原因究明と新規材料開発による長期安定性の向上が、実用化のために大きな課題となっていた。
今回研究グループは、順セル構造のホール輸送層に用いるピリジン系の添加剤 TBPに注目。実験結果の解析によりTBPとペロブスカイト材料が化学反応を起こすことが安定性を低下させる大きな原因となっていることを明らかにした。
さらに赤外分光やX線回折による分析の結果,反応は主にピリジン環にある窒素原子とペロブスカイト結晶の間で生じることが分かった。そこで,この反応を防ぐために,窒素原子の隣接位置にアルキル基を導入することで,立体障害効果(二つの反応原子を空間的に近づくことを防ぐこと)が生じ,この化学反応の抑制に成功した。
その結果,今回開発した新規ピリジン誘導体を用いたペロブスカイト太陽電池は暗所において1000時間を経ても性能の低下が認められなかったという。連続光照射下においても,初期の変換効率から85%まで劣化する時間が,従来の添加剤の場合は25時間弱だったものを150時間まで伸ばすことができ,安定性が6倍以上改善した。
今回の成果は,ペロブスカイト太陽電池の劣化メカニズムの解明による新規材料開発というアプローチが,安定性の向上に非常に有効なアプローチであることを実証するもの。研究グループは引き続き安定性に影響を及ぼす原因を究明し,新規材料の開発を行なうことで,ペロブスカイト太陽電池の早期の実用化を目指すとしている。
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