電磁研ら,透明強磁性体の開発に成功

電磁材料研究所,東北大学,学際科学フロンティア研究所,日本原子力研究開発機構の研究グループは,全く新しい発想による透明強磁性体の開発に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

開発した材料は,ナノグラニュラー材料と呼ばれる,ナノメートルサイズの磁性金属粒子を誘電相中に分散させた金属と絶縁体(誘電体)の2相からなる薄膜材料であり,室温で大きな光透過率と強磁性を示し,かつ,透明度が磁場で制御可能な新しい磁気-光学効果を示すことを見いだした。

透明な磁性体の開発は,磁性材料研究において重要なテーマの一つ。室温で透明な強磁性体が実現すれば,磁気・電子および光学デバイスのみならず,様々な産業分野に多くの革新的な技術発展をもたらすことが期待できる。

これまでに,磁性半導体や磁性酸化物において透明な磁性体の検討がされてきたが,室温では磁化が小さく,また十分な透明性が得られないなど,透明な強磁性体は実現されていなかった。

今回の研究では,鉄(Fe)-コバルト(Co)合金およびフッ化アルミニウム(AlF3)をターゲットとしたスパッタ法によりナノグラニュラー膜を作製した。Fe-Co合金は最大の磁化を有する強磁性金属であり,AlF3は安定で優れた光透過性を有する誘電体なので,膜中では両者が完全に分離して存在する。

この全く物性の異なる物質をナノスケールで混在させることにより,ナノ量子効果による新しい機能を生成させることを期待した。その結果,磁化の大きさが18kA/m(0.025T)で可視光領域を含む400~2000 nmの波長領域において透明な強磁性体の作製に成功した。

さらに,磁界中で光透過率を計測した結果,常温で約0.04%(現在は約0.1%が得られている)という透過率の変化を示した。この特性の発現機構は,量子効果(トンネル磁気誘電効果)に基づく新しい磁気-光学効果であることを本研究の理論的解析によって明らかにした。

この新しい材料は,世界で初めて実現した室温で透明な強磁性体であって,かつ,透明度が磁場により自己調整できる機能を持つ。今後の開発の進展によって,例えば,速度,燃料計や地図を自動車や航空機のフロントガラス上に直接表示するデバイスなど,次世代透明磁気デバイスや電子機器の実現が可能になるという。

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