高エネルギー加速器研究機構(KEK)助教の武市泰男氏が,Asian Union of Magnetics Societies(AUMS)のYoung Researcher Awardを受賞した(ニュースリリース)。
8月1日~5日の日程で開催された第4回IcAUMSにて授賞式が行なわれた。この賞は,磁気の学理及び応用に関する研究の進展に大きく寄与し,優れた研究功績を挙げた40歳未満の者に与えられるもの。
受賞対象となったのは,”Compact STXM: Development and Application for Magnetic Materials”で,放射光X線を用いた全く新しいX線顕微鏡の開発と,それによる磁区の観察。
ハイブリッドカーなどに利用されるモーター用磁石には,耐高熱,高保磁力,またレアメタルフリーなどが求められ,磁性材料開発の競争は世界中で激化している。この様な背景の下,磁石としての性質を決定する磁区は磁性材料の開発において重要な情報となる。
X線顕微鏡は,数10nmという高い空間分解能で磁区を観察できることや,得られた磁気コントラストから元素別のスピン・軌道磁気モーメントを定量的に決定できるなど,磁性材料研究に極めて役に立つ。しかしながら,アジア地区にはX線磁気円二色性を用いた走査型透過X線顕微鏡(STXM,スティクサム)は設置されておらず,研究のためには欧米へ行く必要があった。
武市氏は独力で全くオリジナルなSTXM装置を開発し,国内で数10nm分解能での磁気イメージングを可能にした。開発したSTXM装置は,A4サイズに収まるほど極めてコンパクトな設計で可搬型,加えてレーザー干渉計によるフィードバック制御など独自のアイデアにより,従来型STXMの問題点であった試料ドリフトの問題を解決した。
また,X線顕微鏡で得られた磁気イメージから磁気双極子相互作用エネルギー可視化を行なうなど,磁気イメージング分野において研究成果をあげていることも高く評価された。STXMは現在フォトンファクトリーのBL-13に設置され,既に利用が公開されており,有機材料分野などへも研究の幅が広がり,将来的には有機スピントロニクス材料などへの展開も期待されるという。