東京医科歯科大学の研究グループは,米カリフォルニア大学ロサンゼルス校との共同研究で,紫外線照射されたインプラント材料が,骨芽細胞の親和性を飛躍的に高め,炎症反応を減少させ,インプラント周囲の組織の治癒を促進させることを明らかにした(ニュースリリース)。
インプラント治療は,整形外科や歯科領域での組織再建において欠くことのできない治療だが,これはインプラントの材料であるチタンと骨が結合することで達成される。しかし,チタンと骨の接触率は50%程度であるとも報告されている。また,インプラントと骨を十分に結合させるのには,通常3か月以上の時間を待たなければならないため,生体によりやさしい,性能の高いインプラントが求められている。
研究は,炎症時に発生する酸化ストレスの原因物質である活性酸素種に着目し,この発生レベルを,従来のチタンと紫外線照射チタンで比較した。その結果,紫外線照射チタンで細胞内の活性酸素種の発生が40-50%まで抑えられ,活性酸素種によるDNAの損傷レベルも50%減少した。
さらに,炎症反応のマーカーである炎症性サイトカイン量も,紫外線照射チタンで有意に減少し,紫外線照射チタンが抗炎症効果をもつことが証明された。
これらは,あらかじめチタンに紫外線処理を施すと,チタンの親水性が増加し,チタン表面についた炭化水素などが除去されることにより,細胞親和性が向上し,その結果,活性酸素種の発生が抑えられ,炎症を抑える効果があることによるとわかった。
インプラントに特定の紫外線を照射する技術は,光機能化と呼ばれ,比較的簡便に達成できる技術であり,薬剤などを使わずに,インプラントそのものに抗酸化作用をもたせるという点で,臨床応用も容易だという。インプラント手術などの外科処置には必ず生体に炎症反応が生じる。抗炎症効果をもつインプラントであれば,術後の早期で,良好な治癒を促し,成功率の高い治療が期待できるとしている。
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