東京大学,京都産業大学らを中心としたユニットは,独自に高精度な透過率測定装置を開発し,超微細加工の容易さと高い透過率という観点から中間赤外線用イマージョン回折格子(IG)の素材として有力候補であったテルル化カドミウム亜鉛(CdZnTe)単結晶の減光率を広い波長範囲に渡って精密に測定し,この材料が実際にIG素材として適していることを見いだした(ニュースリリース)。
宇宙からの中間赤外線高分散分光観測は,生命の前駆体となる有機分子(バイオマーカー)の検出など,星間化学やアストロバイオロジーの分野で大きなブレイクスルーをもたらすことが期待されている。しかし,一般に高分散分光器は大型になるため,宇宙望遠鏡(衛星)への搭載は未だ実現していない。
衛星搭載可能な軽量かつコンパクトで高い波長分解能を持つ分光器実現のキー・デバイスとして,IGは期待されている。天文観測で実用となる高効率なIGの開発には,目的の波長において光の透過性が非常に高い(減光率が非常に低い)材料が必要となるが,これまで様々な赤外線透過材料のIGへの利用可能性を判断できるだけの高精度なデータも精密測定装置も存在しなかった。
IGの材料に要求される透過性は減光係数α<0.01cm-1で,これは光が材料の中を1cm進むときの光量の損失が1%以下であることに相当する。従来,広い波長域にわたって高感度の透過率測定を行なうためには,フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)が用いられ,典型的な測定精度は数%程度だった。
そのため,α<0.01cm-1の判定をするには,厚さ数cmの非常に厚いサンプルの透過率を測定する必要がある。しかし,通常のFTIRでは光学系の制限からそのような厚いサンプルでは正確な測定ができないという問題があった。
研究グループは,綿密な光学設計に基づく独自の光学系を用いることで,αを0.001cm-1とこれまでになく高い精度で求めることに成功し,CdZnTeが波長5-20μmにおいてα<0.01cm-1を満たすことを示した。
さらに,透過帯の微弱な減光がこれまで確認されていなかった結晶中のサブμmサイズのテルル粒子によることも定量的に示した。今回の測定方法は,種々の結晶の品質調査や結晶成長研究での活用も期待されるとしている。