九大,超省エネ分子センサーを開発

九州大学の研究グループは,従来の10億分の1のエネルギー(pJ:ピコジュール)で駆動する分子センサーを世界に先駆けて開発した(ニュースリリース)。

我々の健康に関連した多種多様な化学物質に関するデータを電子デバイスで収集する新しいセンサーエレクトロニクスが期待されている。しかし,従来のガスセンサーなどでは極めて大きな消費エネルギー(~mJ)を必要とし,モバイル機器への展開は困難だった。

ナノワイヤー分子センサの原理は,酸化物材料から構成されるナノワイヤー表面において,ターゲット分子が酸化還元反応を起こすことでナノワイヤーの電気抵抗値を変化することに由来している。このナノワイヤー表面における酸化還元反応を生じさせるためには,反応の活性化エネルギーを超える熱のアシストが必要であったが,今回,低消費エネルギーを実証した。

1.数10㎚の径を持つ極めて微小なナノワイヤー構造(微小体積、小さな熱伝導率)に自己加熱法)を適用することにより,小さなエネルギーで必要最低限のナノサイズ空間だけの熱を制御することが可能となった。
2.加えて,ナノワイヤーの極めて小さな熱緩和時間(サブマイクロ秒)を利用したサブマイクロ秒レベルのパルス自己加熱法を適用することで,検出が必要な時だけに熱を時系列で制御することが可能。
3.これらの熱の時間・空間制御により,今回開発した分子センサーが世界最小値であるピコジュール程度の消費エネルギー(従来技術の10億分の1)で100ppbのNOx分子を電流検知可能であることを実証した。

従来の連続加熱法では,高温時の電気抵抗値を測定する必要があったが,パルス自己加熱法を用いることで,パルス加熱を停止している間(すなわち,低温時)に抵抗値を読み取ることが可能となり,半導体の温度特性から,従来の連続加熱法よりもセンサー感度が向上することを見出したという。

従来法では,200~300℃程度にセンサー周辺部を加熱する必要があったため,プラスチック基板を利用することができなかったが,この手法では所定のナノサイズ空間だけにピンポイントで加熱することが可能であるため,従来技術では適用が困難であった温度に弱いプラスチック基板上における分子センサーを搭載できることを実証した。

この研究で提案・実証した分子センサーは,我々の健康状態に関連した揮発性化学物質を,従来のような検査装置がある場所に行くことなく,身の回りの電子デバイスに組み込む可能性を開き,場所を選ばず,簡便かつ高感度に検知・収集する新しい科学技術へと発展することが期待されるという。

具体的にはより複雑な分子構造を電流検知することを可能とし,危険物質の検出や肺がんマーカー分子などの電流検出へと展開を見据えている。さらに,将来のIoT社会でモバイル機器などから収集された化学物質のビッグデータを活用する展開が想定されるとしている。

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