日本電信電話(NTT)は,英国立物理学研究所(National Physical Laboratory:NPL)と共同で,シリコントランジスタから成る単電子転送素子(電子を一つずつ正確に運ぶ素子)を1GHzの高速で動作させた際の,精密な精度評価を行ない,ギガヘルツ領域での世界最高精度(9.2×10-7以下のエラー率)の実証に成功した(ニュースリリース)。
単電子転送素子の高精度化は,精度の高い電流の生成に繋がるため,電流の物差しに対応する電流標準への応用へ向けて前進したとしている。単電子転送に基づいた電流標準を実現すると,近年,再定義が提案された電流の基本単位であるアンペアの最も直接的な実現に繋がる。
NTTは,2層ゲートと微細単電子島を持つ構造を作製した。単電子島を微細にすると,転送精度を決める電子の帯電エネルギーが大きくなり,高精度動作が期待できる。今回の高精度動作は,10ナノメートルレベルの細線に,ゲート電圧による閉じ込めを与えることで達成した。
また,市販の電流計により電流を測定すると,最良でも10-4程度の不確かさが存在する。更なる高精度測定を実現するために,単電子転送電流と1GΩの高精度な標準抵抗を流れる参照電流を比較する手法を利用し,これまでの測定では示せなかった高精度動作までを示すことができた。
今後,実用的な電流標準実現へ向けて,更なる高精度実証を目指した取り組みを進めていく。1つは高精度測定系の改良により,1×10-7程度しか不確かさを持たない高精度測定を行なっていく〔EU(欧州連合)の量子電流標準プロジェクトと協力〕。
また,転送した電子数を電子1つレベルの分解能を持った電荷計を用いて計測することで,電流標準の目標値である1×10-8以下のエラー率を持つ高精度動作へ向けた精度評価も同時に進めていく予定。
合わせて6.5GHzの高速動作時における精度低下の原因を探求し,最高速時での高精度動作の追究を行なっていく。これらにより,高精度な量子計測三角形の実験や,新しいアンペアを直接実現する素子の開発を目指としている。